はじまりの日 ④

 驚くべきことに、誰も杉山と周りの明らかにおかしい三人組に対する突っ込みをすることがなく、始業式が始まった。




 寧ろ僕の方がおかしいのではないか? と思えるほどに、彼らは平然とそこにいて、皆に受け入れられている。

 ちなみに基本的に名前順で席順は決まっているはずなのだが、席に関しても彼らは自由気ままであった。




 杉山の隣の席がフラッパーさんで、前の席がルードさん、そして後ろの席がトラジーさんであった。

 明らかにこのクラスの席順で並ぶというルールは無視されていた。しかもこの三人が入ったことにより、クラスメイトの数がプラス3になっている。

 去年の軸では、杉山は行方不明であったが、当たり前だがその周りの生徒たちは普通に登校していた。そもそも一年も行方不明になる生徒なんて早々いない。……それらの生徒たちは、席がずらされていた。






 始業式にも彼らは普通に参加していた。

 僕は前の方の席に座っていたため、表情などは見ていないが、それはもう後ろで大きな声で会話をしていた。






「ひかるの世界ではこんな風に学園をはじめるのですね! わたくし、同年代の方と学園生活を送るのは初めてですが、わたくしの話に聞いていた学園とも違いますわ」

「それはそうだよ。キャエリンの世界とは違うからね」

「私も長く生きているけれど、これだけ多くの生徒たちが一堂に集まって式をするなんてあまり見ないから不思議だわ」

「そうだよな。あちらの世界の学園は此処までの規模じゃなかったからな」






 後ろから聞こえてくる声――僕はそれに何処から突っ込んでいいのかさっぱり分からなかった。

 突っ込みどころしかない。どういうことなのだろうか? 杉山の世界……なんて単語を口にしているということは、異世界からきたとかなのだろうか? というか異世界ってあるの? それともただこの四人の頭がおかしいだけなのだろうか? ……うん、わからない。







 そしてトラジーさん、彼らの中で一番年上で、寡黙な雰囲気の男性なのだが、こちらは喋らない。どういう立ち位置なのだろうか。そして僕は見たぞ。始業式にも剣を持ってきたのを……!! 

 ……普通なら教師か誰かが注意をする。それでいてこんな訳の分からない会話をしていれば何かしら言われる。他の学園の生徒たちも、教師たちも、誰一人として彼らに対する違和感はなさそうだ。






 目の前の校長の長ったらしい話。

 僕は一度目の高校二年生の時に、退屈だな、眠いな、はやく終わってくれとおもっていたが、二度目の高校二年生では、後ろの会話が気になりすぎる、はやく始業式終わらないかなと思っている。どちらにせよ、はやく校長の話は終わってほしいが、心構えは色々違う。






 僕が特別誰かと親しくしていなかったというのは功を成したのかもしれない。これで親友などがいたら、話しが色々とかみ合わなかった気がする。

 こんなことでぼっちなことを喜ぶとは思わなかった。







「ザールも会話に入りなさい」

「いえ、しかし姫とルード殿とひかる殿の会話に加わるわけには……」

「もー!! わたくしたちは一介の生徒として、この世界の一般市民としてこの学園に通っているのですよ。すなわちわたくしとザールは対等なのです」

「しかし、私はあくまで姫の護衛として……」

「そういうのはいりませんわ!! これはフラッパー王国の第一王女であるわたくしの命令ですわ!! ザール、もう少しわたくしたちの会話に混ざりなさい!!」








 どこから突っ込んだらよいか分からない。






 トラジーさんの名前はザールというらしい。僕以外の人たちには謎の常識改変が動いているらしいが、フラッパーさんとルードさんと杉山にとっては、トラジーさんは明らかに年上に見えることだろう。

 ……僕も話しかける時はトラジー君をするべきだろうか? 明らかに年上に君付けはしにくい。ちょっと家で練習してこよう。

 それはともかくとして、明らかに年上を名前で呼び捨てにするのにもびっくりである。






 一介の生徒として、一般市民としてこの学園に通っている……うん、僕以外にはそう見えるのだろう。でも僕には明らかに変な集団である。明らかに口調といい一般市民ではない。






 あと一番の突っ込みどころだが、やっぱりフラッパーさん、お姫様なの? フラッパー王国ってどこ? 第一王女って何? そしてトラジーさんは護衛のつもりだという情報は分かった。護衛だから、銃刀法違反しているのだろうか?

 護衛とはいえ、一般人を装うならちゃんとそのあたりはしてほしい。剣なんか持っていたら駄目だと思う。






 それにしても耳でだけ聞いていても堂に入った命令口調である。フラッパーさんはそれだけ地位の高い存在として生きてきたということだろうか。

 王族という立場ならばそれもあるのかもしれない。いや、でもまず、なんでそんな王族がこんな学園に通っているのかって話だ。






 ……周りが一切気にしていないのをうらやましく思う。僕も気にしないでただ始業式を終えたかった!! と思いながら僕の二度目の高校二年生の、一学期の始業式は終わった。

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