17:恋をするってどういうこと?
「……で、
「まあ、流れでそうなったけど。一応は認めてもらえたみたいで良かったよ」
教室で弁当を食べながら、俺は昨日あった出来事についてを友人たちに話して聞かせていた。
家に通う以上はいつか訪れるイベントだと思っていたが、あんな形で顔を合わせるのは想定外だ。
けれど、どうにか乗り切ることができたのだと軽い報告のつもりだったのだが。
「
「ん? 本気でって、何のことだよ?」
「……それってさ、皇の両親は猫のことだと思ってないだろ」
「いや、ちゃんと伝わってるだろ。娘さんを大事に想ってますって、はっきり口に出してるわけだし」
「だから、ソレ。猫も家族の一員ってのはわかるけど、娘って言われたら普通は人間の方を思い浮かべるモンだろ」
「でも、俺が好きなのは皇じゃなくてカヌレだし……」
言われてみれば確かにそうなのかもしれないと思うが、俺がカヌレを好きなことは皇だって理解している。
だからこそ彼女の両親にもその事実が伝わっていると考えていたのだが、蓮と一星は揃って大きな溜め息を吐き出す。
「これまでは半分おふざけと思って付き合ってたけどよ、今回はさすがにどうかしてるぞお前」
「どうかしてるって……」
「猫を口実に皇さんと距離を詰める、って作戦じゃないんだよね?」
「だから違うって……!」
「愛人。猫にガチ恋してるって、普通に考えておかしいだろ」
いつもの呆れたような、小馬鹿にしたような物言いではない。
本心からそう思っているのだと伝わる声のトーンに、俺は言葉を詰まらせてしまう。
「犬を飼い人を愛するって書くのに、本気で猫に恋してるの?」
確かに俺はどちらかといえば犬派だったが、猫派になったとしても問題ではないだろう。
(いや、そういうことじゃなくて……)
「……そろそろ、午後の授業始まるな。ちゃんと考えてみろよ。お前のためを思って言ってんだからな」
そう言われて、俺は半ば呆然としたまま教室へ戻ることとなった。
午後の授業は、とてもではないが身が入らない状態のまま終わってしまう。
そのまま迎えた放課後。
皇にいつものように家に来るのかと言われたが、今はカヌレに会える気がしなくて断ってしまった。……カヌレだけではない、皇の顔もまともに見ることができなかった。
(猫を好きになるって、そんなにおかしなことなんだろうか)
授業に集中することができず、俺はスマホを使っていろんな記事を検索していたのだが。
世界には、実際に猫と結婚をしたという人もいるのだという。
法的な効力はないかもしれないが、俺と同じように猫を好きになった人間がいるということなのだ。
だとすれば、俺が猫に……カヌレに恋をしたって不思議なことではないはずなのに。
普通に考えておかしい。
そう言われたことに、こんなにもショックを受けている自分がいる。
俺のことをよく知ってくれている友人から出た言葉だからこそ、余計に衝撃が大きかったのかもしれない。
(今までは、何だかんだ言いながら応援してくれてたのにな)
俺がどれだけ高嶺の花に恋をしようと、望みの無い恋をしようと。
蓮と一星だけは、呆れた顔をしながらも俺の背中を押してくれていた。
その二人が、初めて『この恋は間違っているのだ』という。
学校からどんな風に帰ってきたかは覚えていないが、気がつけば俺は自分の家の前まで辿り着いていた。
振り返って見上げた先に、カヌレの姿はない。
あの出窓からこちらを見下ろす小さな影があれば、俺は今日だって間違いなく胸をときめかせていたはずだ。
「カヌレ……」
こんな小さな声で呼びかけたとしても、カヌレに俺の声が届くはずがない。
自分の家に入った俺は、何もする気になれずに自室のベッドに寝転んで目を閉じた。
(今まで、どんな風に恋してたっけな……)
俺の恋はいつだって唐突に始まって、呆気なく散っていくものばかりだった。
この恋もまた、実らないまま散るのを待つばかりなのだろうか?
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