03:恋愛相談
「
教室で顔を突き合わせて早々、そんなことを言い出したのは
気になっていたのは
「ボクも気になる! 愛人くん溜め息増えたけど、失恋引きずってるわけじゃないって言うし。恋煩いってホント?」
「ホントだけど……」
別に隠すつもりはないし、そもそも恋煩いだと打ち明けた時点で察しているものかと思っていた。
だが、俺一人ではこの先に進める気もしない。
なにせ、恋愛経験には
「この学校の子?」
「いや、違う……けど、繋がりはあるっていうか」
「他校生なんだ? 愛人くんって結構身近な女の子に惚れる印象だったけど、珍しいね」
「ただ、ガードが固くて……直接名前を聞いたりすることもできないんだ」
猫なのだから、本人(本猫?)の口から名前を聞くことができないのは当たり前だ。
だからこそ、まずは飼い主である転校生の
「直接聞けないってことなら、まず周りから
「周りから?」
「そうそう。繋がりあるんだろ? なら、まずはそっちと仲良くなるのが手っ取り早いんじゃねーのかなって」
「確かに、友達の友達なら警戒心薄れたりすることってあるよね」
二人の言うことには一理ある。
俺はいきなり名前を尋ねようとしたが、皇とはクラスメイトとしてまともに会話もしたことがない状態だったのだ。
そんな相手からいきなり家族のことを聞かれて、素直に答えてくれるとは思えない。
「なるほど……わかった、やってみる」
そうと決まれば、善は急げだ。自慢じゃないが、俺は行動力だけはあると思っている。
早速昼の休憩時間に、弁当を広げている皇のところへ向かった。
「皇、ちょっといいか?」
「……なによ」
彼女と一緒に弁当を食べようと誘おうとしていた女子たちが、ざわついたのがわかる。
女子だけではなく、蓮と一星も驚いている様子だった。
何の接点も無い俺が、いきなり彼女に声をかけるなんて想像もしなかったのだろう。
「お前と仲良くなりたいんだけど、一緒に弁当食べないか?」
「は?」
相手を知るためには、同じ釜の飯を食うのが一番だろう。
実際は別の釜で作られた弁当だが、そこは気持ちの問題だ。
「仲良くなったら、お前んちの猫のことについても教えてほしいと思ってる」
「猫って……まさか、猫をダシにしてアタシと仲良くなろうってこと……?」
直球で伝えてみたものの、皇は小声で何かを呟いている。先日の一件もあって俺のことを警戒しているのかもしれない。
「いや、無理。アンタと仲良くなりたいとか思ってないし」
「……そうか」
結局弁当を一緒に食べてもらうことはできずに、作戦は失敗に終わった。
「愛人くん、もしかして新しい恋の相手って皇さん……? 他校生って言ってたけど、確かに少し前までは他校生だったわけだし」
「いや、違う」
「違わないだろ……わかりやすすぎる上に、毎回ハードル高すぎだぞお前」
友人たちには勘違いされてしまったが、彼女との仲を深めるのが俺のミッションなのだ。
弁当作戦は失敗に終わったが、次は変化球で攻めてみるべきかもしれない。
そんなことを考えながら、午後の授業が始まった時だった。
俺の斜め前の席に座る皇が、何かを探している。
不思議に思ってその様子を眺めていたのだが、授業が始まったというのに、机にはノートしか出されていないのだ。
(もしかして、教科書忘れたのか?)
美少女転校生ということで連日囲まれてはいたが、まだ近くの席のクラスメイトに教科書を見せてもらうほどではないのかもしれない。
だが、よりにもよって今の授業は厳しいことで有名な数学の
たとえ相手が転校生であろうと、忘れ物をしたとなれば何らかの罰は
自ら申告すれば少しは違うのだが、転校してきたばかりの彼女に、授業を中断してまで自己申告させるのは酷だろう。
「あ、あの……」
恐る恐る手を挙げようとした彼女の机に、俺は咄嗟に自分の教科書を放り投げて立ち上がった。
「せんせー、教科書忘れました」
驚いた彼女がこちらを振り返るが、俺は気にせず片桐の方を見る。
黒板に数列を書き記していた片桐は、眼鏡を光らせて俺の方を振り返った。
「……
「ウィース」
俺に与えられた罰は、放課後の資料室整理だった。
面倒だが、女の子がこれをやらされるよりはマシだろうと思うことにする。
友人二人はこっそり手伝ってくれるかと思ったが、バイトだ何だと理由をつけてそそくさと帰っていった。
資料室の扉が開いたのはその時だった。
片桐が様子を見にやってきたのかと思ったのだが、そこに立っていたのは皇だ。
「え、皇……? どうしたんだよ」
「……コレ、返しにきたの」
そういう彼女の手元には、俺が貸したままだった教科書が握られていた。
机にでも置いておいてくれたらいいのに、わざわざ律儀に届けにきてくれたのか。
「わざわざ来てくれたのか、ありがとな」
「別に……お礼言うのは、こっちだし」
「ん? なに?」
「別に、っ……! じゃあこれ、確かに返したから!」
よく聞こえなかったのだが、俺は胸元に押し付けられた教科書を受け取る。
そうして資料室を出ていくかと思った彼女は、なぜか出口でぴたりと足を止めた。
「……カヌレ」
「え?」
「名前、カヌレよ」
背を向けたままそう短く告げると、彼女は今度こそ廊下へと姿を消していった。
彼女の名前は真姫だ。となると、教えてくれたのは猫の名前ということなのだろう。
「カヌレ……皇カヌレ……」
口に出してみると、気持ちが一気に高揚していくのがわかる。
俺はやっと、ジュリエットの本名を知ることに成功した。
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