第32話


「あのー、お二人さん、そろそろいい? ちょっとミラに聞きたいことがあってさ」

「いいけど」

「光の魔力を使うときにピンク色の光が出たことはあるか?」


 どう聞けばいいかいいのかずっと迷っていた。俺は光の魔力を使えないし、ピンク色の光が出るなんてどこにも書いていない情報をなぜ聞くのかと思われるのが嫌だったから。

 でも、悩む暇があったら早く相談したほうがいいと気がつき、タイミングを逃さないうちに聞いてみることにした。


「ピンク色の光? ……いや、そんなの見たことない。私の知ってる光の魔力使いは、みんな金の光だったよ」

「そうか。ありがとう」


 現場でも活躍するミラが言う言葉だからこそ、その言葉に現実味が帯びる。さまざまな本にある通り、光の魔力を使う際は金の光が出るのだろう。


 ──だとしたら、ティーネは一体何者だ?


 国を誤魔化して光の魔力使いを騙り、この学園に入学した? だが、それは考えづらい。


 ただの庶民だった少女が今の今まで国を誤魔化し切るなんて不可能だろうし、もしできても、そこまでする目的がこの学園にあるとは思えないのだ。


 謎のピンクの光。見たことのない、正体すら分からない『ものを修復する魔法』。そして、それを俺の前で隠しもせず使ったティーネ。


 原作では、ヒロインであるティーネが魔法を使った際のエフェクトは金だった。光の魔力を使い味方を回復させるたびに金の光がキラキラと舞い、光を被った人物のケガが治る。そんなシーンがどこかにあった。



『先輩、手がっ……!』

『こんなのかすり傷だ。私が怪我をしたところで、誰も悲しみなんかしないから、っ』

『……ダメですよ。そんなこと、絶対ありませんから。だって、ほら。今目の前に、あなたを心配する私がいます。先輩が怪我しているのを見て悲しみ、心を痛める人間が、少なくとも一人はいます』

『ティーネ……』



 頬を染める攻略対象の美男子に降り注ぐキラキラエフェクト、そして怪我の完治。これは落ちましたな。


 でも、乙女ゲームのヒロインはなぜ気のない男子にも興味がありますよ風に振る舞うのだろう。勘違いしてヤンデレが増殖されてもおかしくないとも思うのに。つまらなそうだが、それはそれで一度見てみたい。攻略対象を徐々に攻略していたら全員ヤンデレになってて、みたいな乙女ゲーム。


 完全に話題がズレたな。前も言った気がするが、本当なら、学園での魔法使用は禁止されている。


 ゲームではみんな気にせず魔法を使う手の込んだ嫌がらせをし、挙句の果てには攻撃魔法を使って思い切り相手を害したりと大胆な生徒が多かった。

 まぁそれもフィクションだからだろう。実際死人が出てもおかしくないような威力だった気はするが、現実で起きたら怖いので考えないようにしておこう。


 この世界ではそんなことが起きないように祈るばかりである。


 今もティーネは攻略対象者たちを攻略して回っているのだろうか。それとも、他の何かをしているのだろうか。


 この世界はなんだかおかしい。


 ティーネは得体の知れない魔法を使うし、真ヒロインみたいなミラはいるし、マノンは色々な疑惑があるし、本来なら悪役のコーネリアが……どこかの誰かだし。


 知れば知るほど分からなくなっていく。俺の目標は最初から一つだが、その他の問題も山積みで頭が痛くなる。



 ……そろそろ、マノンは中庭に来てくれるだろうか。



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攻略対象外のただのモブなのにヒロインから死ぬほど好かれている 葉羽 @mume_21

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