第31話
「反省しろ。お互いに話し合え。騒ぐのはいいが、周りに迷惑をかけるな」
「「はい……」」
ガヤガヤと賑わう教室の隅だけが異質な空間だった。周りから切り離されたような空気が流れ、俺はため息をつきたくなった。
「んで? あの喧嘩の原因はなんだ? 先にディーノ、どうぞ」
「……ミラが勝手に勘違いをして、俺を遠ざけようとしてきたから」
「なっ、私は……!」
「はい静粛に。次にミラ、どうぞ」
「私は別に、ディーノを避けてるわけじゃない。元々の距離が近すぎたから、正常な距離感に戻っただけよ。理由なんてそれくらいしかない」
「へぇ、じゃあなんで2人は教室ぶっ壊す勢いで喧嘩してたのかな? 聞かせてくれよ」
「……」
はぁ、と堪えきれないため息がもれた。
本当ならこんなことしてる場合じゃないのにと思うも、急いで事態を把握しようとするのは逆に悪手だと気がついたのはずいぶん前のことだ。
耐えるのには慣れている。どれだけ歯痒くとも、無理に動くべきではない。
今はとりあえず、この2人のめんどくさい痴話喧嘩を諌めよう。
「2人の問題は、2人で腹を割って話し合いをして解決してほしい。と、俺は思う。どうしても嫌なら、別に俺は止めない。でもこれからのことを考えるなら、2人にとって最善はどっちなんだ?」
ああ、無駄に首を突っ込むのは俺の悪い癖だというのに、気をつけていてもつい口を出したくなってしまう。こんなの、本来俺が言うべきではないのだ。
「……ディーノ」
「なんだ」
「すごくワガママで身の程知らずで馬鹿みたいなことで、私は子供みたいに癇癪を起こしているだけだった。……ディーノが側にいて守ってくれるのが当たり前だって、ずっと勘違いしてたの。恥ずかしいでしょ、気持ち悪いでしょ。ディーノが私の側にいるのはただの仕事で、国からの命令があったからでしかないのに」
「……」
「私ね、ディーノにこれからも一緒にいてほしい。ずっと私を守っていてほしいの。ごめんね」
ミラは顔を俯かせていて、表情がよく見えない。でも声は震えて、いつもの強気な言葉は一つも出てこなかった。
光の魔力を持つものの命令には、ただの貴族では逆らえない。居心地が悪いと他国へ逃げられては困るから、国はミラのお願いなら大抵叶えてくれる。それを自分で理解して言っているのだ。これからも自分の護衛であり続けて欲しい、と。
謝り続けるミラに、ディーノは言った。
「俺は最初からそのつもりお前の護衛をしている。変な勘違いを起こさないでくれるか?」
「……は」
ミラは訳がわからないといったようにポカンと口を開けて、戸惑いの声をあげた。そんなミラを見つめながら、ディーノは続ける。
「最初に見たときから、ミラの護衛をしたいとお願いしたのは俺自身だ。俺が自分の意思で、わざわざミラを選んだ。……分かったか? 俺は、頼まれる前からお前の護衛を希望していた」
「っ……」
嬉しそうにジワジワと頬を赤らめていくミラと、楽しそうなディーノ。仲直りができたようで何よりだが、ここでいきなりアオハルが始まっては俺の肩身が狭いな。
若干の居心地の悪さを感じながら、2人を眺める。向き合って控えめな笑みを浮かべ、柔らかな空気に変わった2人。
その姿をみて、また切望が強くなった。
……ああ、早く。早く、
「コーネリアに会いたい」
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