第28話

「あっ、おいミラ。またシリルに奢ってもらってるのか?」

「またってなにディーノ。私がそんなに厚かましい人間だと思ってるの?」

「違うと言えば嘘になるな」

「ちょっと!」

「おいディーノ、そこまでにしとけ。ミラも早く食べないと冷めるぞ」


 レストランよろしく白いテーブルクロスの引かれた広い机に食事が置かれて数分が経った。

 キラキラと目を輝かせて手を合わせたミラは、今こそ慣れたものの、つい最近まではこの待遇に居心地悪そうにそわそわとしていた。いや、今でも庶民の自分にこんな対応をしてくれる、自分より身分が高いであろう給仕さんに当たり前のように接することはできていない。まあ俺も、記憶を思いだしてからは違和感が生活の至る所にでてきたのを覚えている。


 二人でもくもくと静かに食事をしていれば、向かいからクラスメイトの大柄な男、ディーノがやってきた。

 手には札を持っていることからこいつもランチをしに食堂へ来たのだとわかる。


 にしても、この二人は仲がいいのか悪いのか。顔を合わせればどちらかがどちらかを煽り、それに乗ったもう片方がまた煽る。以前はミラから、そして今回はディーノからだ。どちらもやられた仕返しは倍にして返してやるという似たような性格なので、気が合うと言えば合っているのだろうか。

 喧嘩するほど仲がいいと言うようだし、この二人もなんやかんやいって一緒にいるのを見かけることが多いのだ。


「ここ座ってもいいか」

「ああ、もちろん」

「……」


 口に食べ物を含みながら嫌そうな顔をしているのが一名いるが、不服そうにもう一口ぱくりと頬張

 っているので大丈夫だろう。


「ディーノは最近どうだ? なにか忙しそうにみえるんだが……」

「ああ、最近の自分は学園生活に慣れたるんでいると思ってな。鍛錬の時間を増やしているんだ。思ったより筋肉も落ちていて、このままではお父様にも怒られてしまうからな」

「将来は騎士になるのか? ディーノは確か騎士の家系だったような……」

「っえ、騎士になるの!? 護衛じゃなくて!?」


 ミラががたん、と音を立てて立ち上がった。さいわい周りのうるささもあってそこまで目立ちはしなかったが、それでもマナーに厳しい貴族からはわかりやすく睨まれている。

 数少ない庶民だから、ということもあるようだが、庶民なのに貴族の自分たちと同じ立場で同じ場所で学ぶのが気に食わないというプライドの高い生徒は存在する。

 いつもはそれを知ってかマナーや作法には敏感で、恥をかかないよう、見下されぬよう、人一倍気を使って過ごしているはずなのだが。


 そんなことも気にならないくらい、ミラは動揺しているようだ。


「……なんで、護衛になると思ったんだ?」

「だってディーノは、いつも私を守ってくれるから、これからもって、……っごめん、変なこと言って」


 いつもの対応とは違いすぎるそのミラの焦ったような口調はだんだんと自信なさげに弱まり、最後はそれだけ吐き捨てて足早に立ち去ってしまった。


「……ディーノは、騎士になるのか?」

「今のところ、その予定はないな」


 二人きりになった机で、目の前のクラスメイトは、律儀にも完食された食事の後をみて目を細めた。


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