第25話


 ――――

 ――


「……ふ、ふふふっ! やっぱり!」


 暗闇に紛れる、ウェーブを打った紫根の髪。健康的な身体は、発達が遅れているのか一回りほど小さく見える。

 女子寮の二階に位置する部屋のなかは電気がついておらず、カーテンの開いた窓から差し込む光だけがその人の肌を青白く照らしていた。


 小さな笑いは誰もいない部屋に大きく響き、その不気味さを強調させている。


「私が、……私がこの世界のヒロインなのよ!!」


 声に似合わない、昼間に浮かべるかわいらしい笑みを浮かべながら叫んだその女は、一つのノートを取り出した。


 この世界にはない、画数の多い文字と少ない文字の混じった不可解な言語で書かれたそれを眺めながらうっそりとした表情で目をつぶる。


「やっぱりそう。私の考えは間違っていなかったのよ。今はあの女に夢中のようだけど、きっと今に気がつくわ。私が真のヒロインだって」


 赤眼の女は転生者だった。

 いや、赤眼の女の中にいる女は転生者だった。


 魔法の存在する世界に生まれ、魔法の才能に恵まれた。代わりに出身はスラムで、容姿も整っていなかった。


 だが、女は自分がこの世界の主人公であると信じていた。


 だから独学で魔法を学び、邪魔をするものは全員消して、王都に存在する魔法学院に通うための努力をした。


 現実はそう甘くなかった。シーダルシ王都魔防学園には、王族貴族などの将来国を担う人材と生まれる確率の低い光の魔力持ちしか入学することはできないのだ。

 できない訳では無いが、その可能性はゼロに等しかった。


 女は考えた。優秀な脳みそで考えて考えて、そして思いついた。


 貴族の身体を乗っ取って、学園に入学すればいいのだと。


 すでに学生の歳ではなくなっていたが、そんなことは女に関係がなかった。

 幼く警戒心のない、ちょうどいい貴族の子供。容姿が良ければなおよし。そんな条件で探し始めたが、見つかったのはすぐだった。


 桜の木によく似た樹木が生える森へ寄り道をしたところ、木の枝を拾おうとしている女の子がいたのだ。

 パッチリとした大きな瞳に、艶のある美しい髪。将来有望そうなかわいらしい、女の探し人にピッタリな子供だった。


 だが深い森の中、わざわざ桜の木をもってかえろうとするならもしかして転生者ではないか? そう当たりをつけた女は、口角をあげてにたりと笑った。

 転生者はもともと消そうと思っていた。ならこれも都合がいいでは無いか。


 ――女は優秀だった。優秀すぎて国から命を狙われたこともあるほどに、魔法に通じていた。


 記憶を探るのも、断片的な未来を視るのも、幻覚を見せるのも、魂を入れ替えるのも、女の知識と技量、そして才能ならそう難しいことではなかった。


「まっててね、私の王子様たち」


 透き通るような美しい笑みで、女はそう遠くないであろう未来へ思いを馳せた。


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