第24話
婚約者に裏切られたリアムだからこそ、同じ境遇の俺となかよくしてくれたのだろう。
他の奴らは正直言っておかしい。
そこに恋愛感情があるのかないのかは家の事情にもよるが、長い付き合いの婚約者に裏切られて簡単に許せ
るものなのだろうか。
俺の感性からすればそうやすやすと許せるものでは無いし、ましてや相手との幸せを祝福するなんてイカれた真似はできない。できるわけがない。
これは俺が転生者だからなのだろうか。少なくとも前世では浮気や不倫はスキャンダルとして報道されていたし、俺と同じ価値観をしていたと思う。
真実の愛というキーワードを耳にする度、前の世界との違いをまざまざと見せつけられる。
俺の、俺の守りたいものの生きるこの世界は所詮作り物なのだと。紛い物なのだと。
みんな生きている。命がある。一人一人が自分の意思で動いている。
そんなことはわかっている。
でも、たまに信じられなくなる。
「……どうかしましたか? はっ、もしかしてあいつらのせいで体調でも……」
「い、いや大丈夫だから、手は出すなよ」
今にも立ち上がって二人へ向かっていきそうなリアムの腕を掴み止める。
婚約者を本当に愛していたからか、婚約破棄をしようと言われた時の落ち込みようは見ていられなかったそう。
その反動なのか、真実の愛を信じ婚約破棄なんてしでかしたヤツらへの殺意が半端じゃない。
真実の愛のせいで相手を苦しめたなら、その分私がお前を苦しめてあげないとフェアじゃないでしょう? とはついこの前のリアムの言葉である。
その後先生にバレても大丈夫な程度の幻覚を見せ、「許されると思うなよ」とのセリフを残して去っていったという。
さすが暗部の息子、やることなすこと公に出ないよう調節しながらもしっかり心に傷を残していくぅ。
「やだあ、ユーリ様ったら意地悪なんだから」
「ふふ、ごめん、君がかわいいものだからつい。拗ねないでおくれ」
「……もう。仕方ないですわね」
すぐ隣で繰り広げられる地獄。だがそれ以上に修羅のような表情のリアムがホラーすぎて気が行かない。
ああ、砂糖砂糖。
これが乙女ゲームのワンシーンなら姉はキャーキャーと叫んでいるであろう。
俺の顔はきっと表情が抜け落ちているが。
本当に、二人は俺に対しての仕打ちがひどすぎないだろうか。広い席も空いていたのに、わざわざ隅にある狭い机、しかも元婚約者が一人でいる場所に来るなんて。
そういう緊張感が好きな変わり者なのか、それとも罪悪感や気まずさを感じない特殊体質なのか。
どちらでも嫌だしどちらでも人間としてちょっと心配になる。
だが、今はそんなことを考えている暇はないよう。
「リアム。リアム、暗器をしまえ。殺したら負けだぞ。それはお前が一番分かっているだろう」
「……クソ、私が知能のないモンスターなら真っ先に噛み殺しているというのに……!!」
「なんとなく分かりにくい例えを入れるのはやめような? 俺は気にしないから落ち着け」
どこからかでてきた小ぶりなナイフを手に取ったリアムの目にはハイライトがなかった。俺が止めていなければどうなっていたのやら、こいつは暗殺者とは思えないほど沸点が低い。
自分より取り乱した人を見ると逆に冷静になれるってまさにこういうことだと思う。
「もう調べたいこともわかったから。ほら、気分転換に散歩でもしよう」
「チッ」
最初より大きな舌打ちをかまし、足早に出口へ向かうリアム。
それを追いかけるように本を手に席を立つ。
「あの人、君の元婚約者じゃないのか? もう行ってしまうようだけど、話はしなくて大丈夫そうなのかい?」
「大丈夫よ。あんな人のために割く時間なんてないもの。あなたと一緒にいる時間を大切にさせて?」
背後からしっかりと聞こえてきた声。
これまたわざとなのか。というか、俺がいることすら認識していなかったんだな。
……ニセモノさんは、随分と俺のことが嫌いで嫌がらせをしたいようだ。
あんな人、そう呼ばれるような対応をした覚えはないし、ユーリはユーリでなぜ話しをさせようと考えたのだろうか。
……ああ、リアムにあの会話が聞こえていなくてよかった。もし聞こええていたら、この図書館が大騒ぎになるところだったから。
そう安堵の息を漏らし、足を止めることなく図書館を出た。
そしてまた新しく決意を固める。
早く、早くコーネリアを取り戻そう。
コーネリアのためにも、……俺のためにも。
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