第23話
それから数日。
「そろそろ時間もあれですし、ゆっくり休んでくださいね」
と言い残し普通に帰って行ったティーネ。
今までなぜそんなに粘っていたのか分からないくらい簡単に帰ってくれたものだから、つい拍子抜けしてしまった。
今は次の授業の予習をするために図書館へ来ている、のだが……
「ね、これ」
「ああ、その魔法陣は使いどころが限られていて……」
「……」
何故か俺の座る席の隣の隣に、コーネリアとあの時の男が。
覚えているだろうか。
コーネリアが婚約破棄を申し込んできたとき、横でにこにこしていたイケメンだ。
俺は正直名前も忘れたし、あれから特に調べてもいない。
だってニセモノがどんな男を選ぼうとコーネリアには関係ないのだ。つまり俺にも関係ない。貴重な時間を割いてまで調べる価値はありはしない。
まぁ、多少の情報は聞きたくなくても勝手に入ってくる。
厳密に婚約破棄はしていないので元と言っていいのか分からないが、コーネリア(ニセモノ)が選んだ男だと友達が教えてくれたりもした。
ありがた迷惑のような気もしたが、そいつは俺と同じく真実の愛を嫌うこの国の風潮に合わない男の一人。
お前の婚約者が選んだのはこんな男だぞ。
お前の婚約者を奪ったのはこんな男だぞ。
顔を梅干しのようにぎゅっと真ん中に寄せながら、憎らしげな声色で様々なことを俺に流してくれた。
金髪イケメンの名前はユーリ。
それなりに有名な上位貴族らしいが、細かいところは忘れた。
覚える必要がないと判断したのだろうか、聞いたという事実は覚えているのに内容は全く頭に残っていないのだから、俺の頭は随分と優秀なようだ。
その二人は、先に俺が机を陣取り過去の歴史で行われた魔法実験についての記録を見ていたところにやってきた。
ゼロ距離でベタベタと話しながら入ってきて、それを見ていた俺は顔を顰めないよう無表情を心がけて本だけを見ていた。
他にも空いてる机や椅子はたくさんあった。
それなのに、こいつらは俺のいる机にわざわざきて当てつけのように勉強をしていやがるのだ。
悔しい訳では無い。俺にはコーネリアでないと意味なんてないから。
でも、コーネリアの姿そのままで俺以外の男と至近距離で囁きあい、時折顔を見合わせて小さく笑うなんて。目の前の見たくなくても視界に入る距離でそんなことをされれば、嫌になるに決まっている。
しかも、俺は二人がくる直前に新しい本を持ってきてしまった。謎の意地で、読み終わるまではここを離れたくなかった。
早く読んで帰ろう。きっと……うん、きっと寮にいれば安心だから。
寮についこの前ヒロインがやってきた緊急イベントを思い出し、果たして寮は安全と言えるのか考え始めたとき。
「あ」
「…………チッ」
大量の本を抱え魔法で図書館の扉を開けたかと思えば、俺と隣の二人を目に入れて舌打ちをしたその男。
隠しもせずに「不快です」という感情をそのままに返却をし終わった男は、二人を横目で睨みながら俺の方へやってきた。
「……一回地獄に落ちてしまえ」
「ちょ、聞こえるからね?」
もとより静かな図書館の中。多少の物音や話し声はするものの、ほとんど静まり返った音のない空間だ。
その場所で舌打ちをするだけでも全体に目立つのに、すぐ横に二人がいる状態で堂々地獄に落ちろ宣言をする精神はなんなのだろう。
お前のハートは鋼なのか? さすがに強すぎないか?
「相変わらずだな、リアム」
「まぁ当然ですね。あんな非常識なやつらに払う敬意なんて一ミリもないですから」
リアム・シャティ。暗部のトップを担うシャティ家の次男で、真実の愛を心から嫌悪する俺と同い年の男だ。
家は長男が継ぐそうだが、リアムも将来は暗部で活躍すべく鍛えられた超エリート。
暗殺技術だけでなく体術まで、他とは一線を引く強さをもつ将来有望な学生である。
現在ヒロインに夢中の兄を心底軽蔑しており、壮大な兄弟喧嘩が起こっているとかいないとか。
ちなみに、真実の愛が嫌いな理由はとてもシンプル。
大好きだった婚約者が真実の愛を見つけて婚約破棄を申し込んで、それを家が承諾してしまったから。
なのでリアムは真実の愛のせいで、シャティ家も兄も婚約者も信じられなくなった可哀想な男なのである。
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