第20話

 目の前に広がった光に驚いていると、ティーネが何かの呪文を唱え始めた。

 まばゆい光につい目をつぶる。


 光がおさまり目を開ければ、そこには綺麗に直ったドアと元通りになった部屋が広がっていた。


 ボロボロだったはずのドアは綺麗に立て付けられているのか一切の光もない。

 一気にティーネの顔すら見えないほどの暗闇にに包まれていった。


 もちろんドアが直ったことによって、外の男子生徒から姿は見えることはない。

 声すらもほとんど届かず、今度こそ本当に二人きりの静かな空間が流れていった。


 呆然としていれば、部屋の明かりがパチンとつく。

 ティーネがつけてくれたようだ。

 いきなり明るくなった視界につい目を瞬かせヒロインの方を向くと 、そこにはいつもと同じような綺麗な笑みを浮かべたティーネが立っていた。


 それがなぜか不気味に感じ、ついついベッドの上で後ずさる


「どうしたんですか、先輩? これでもう大丈夫ですよ」


 ……ああ、今日は顔の筋肉の稼働率が半端じゃない気がする。

 その言葉を聞いてヒクヒクとひきつる顔の筋肉は、今日一日でどれだけ酷使されたのだろうか。酷使しているのは俺なのだが。


 だが、それよりも気になることが一つある。


 それはさっきティーネが使っていた魔法についてた。


 先程の魔法は、ティーネにしか使えないものなのだろうか。

 本だけは読み知識は豊富なはずの俺にとって全く認識のない魔法を、ティーネが使っていたことに違和感を覚えたのだ。


 魔法書にも歴史書にも載っていない、ものを修復する魔法。


 初めて目にしたそれをティーネがどこで習ったのか、一生徒としての好奇心が疼いた。

 先輩後輩モブヒロイン、そんな立場なんて関係なしに魔法を教えて欲しかった。


「ありがとうティーネ、助かったよ。それよりさっき使っていた魔法って、 」

「いえ、私にできることをしたまでです。……あー……先輩。あの魔法は光の魔力を持つ者にしか使えないものなんですよね。 すみません、教えることもできそうになくて……そもそも私、教えるのがど下手くそなんです。

 ……ところで、体調はもう大丈夫なんですか?」

「んー、やっぱり少し気分が悪いかもしれない。悪いからティーネは帰って来れないか? もうこんな時間だし」

「いいえっ、私は先輩の看病をするためにこの部屋にきたので帰るわけにはいきません。そう言えば、お見舞いの品もたくさん持ってきたんですよ! 見てください、今日の授業で作った魔法石。他の人より小さくても、キラキラしててかわいかったので……どうぞ、先輩。お守りとして、持っていてください」


 そう言って、金ベースに薄紅梅が混じったような小さな石を手渡された。それを受け取り、すぐにサッと顔を青くする。

 ……ティーネの光の魔力がこもった魔力石なんて貴重なものを、貰ってしまったではないか。拒否しろよ馬鹿野郎、どうすんだこれ……!! と内心荒ぶりまくりだ。もちろん顔には出さないよう努めているが。


 そしてまぁ、さっきからわかっていたはずのティーネの難聴にはやはり納得できないな。


 ティーネが光の魔力を使ったということには薄々気がついたのだが、本来光の魔力を使うときはまばゆい金の光が発生するはず。


 だが、ピンクの淡い光が部屋に広がっていたのを俺は見た。ならあれは光魔法ではないのだろうか。 それともティーネが特別なのだろうか。


 ただのモブである一般市民の俺には分からないことが多すぎる。

 変に突っ込むこともあまり良くないのだろうか。


 そうは思っていても、気になるものは気になる。とりあえずは今度ミラに聞いてみよう。


 ああ、それにしても早くヒロインにはこの部屋から出ていってほしい。


 ドアが壊れてヒロインがこの部屋に入ることが見つかるという恐怖はなくなったが、 そもそもヒロインがこの俺の部屋にいる時点でおかしいのだ。ドアが治ったことで安心している場合ではないぞ、がんばれ俺。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る