第15話

 ……考えれば考えるほど、マノンが中庭へ来れた理由がひとつに絞られていく。


 失礼だが俺の予想を遥かに上回るほどの頭脳をマノンが持っているとは思えないし、たまたま見つけられるほどこの通路は分かりやすく作られていないのだ。


 寒くも暖かくもない廊下に一人で立ち止まり、窓の外をじっと見つめる。


 ここまでの思考から、マノンは転生者、もしくは転生者が身近にいると考えられる。学校などで仲の良い生徒が転生者、なんて可能性も捨てきれないな。


「んー……」

「何も無いところをそんなに見つめて、幽霊でもでたの?」

「いや幽霊はいないんだけどさ……って、マママノン!?」

「はい、私はマノンですけど」


 ボーッとしていた俺の目の前にいきなり現れたのは、ちょうど俺の頭を埋めつくしていたマノン。

 この状況、なんだか以前にもあったような……。


「いきなり飛び出してくるの、心臓に悪いからやめろよ……」

「声はかけたわ。反応がないから、わざわざ目に入る位置にきてあげたの。優しいでしょ?」

「……わ、わァ、マノン様やさしいー」

「わざとらしいわね。まぁ、それはどうでもいいのよ。あなた、あんなに集中して何を考えていたの?」

「えーとですね……」


 ……うん、どうしようか。この場で聞いてしまうのが一番手っ取り早くて簡単な方法だとは俺も分かっている。


 だが、いきなり『ユー、もしかして転生者カイ☆』(意訳)と聞いていいものなのか。ドン引きされた挙句、最悪の場合夢見がちな電波ちゃん扱いをされるぞ。全て俺の想像でしかないが。


 この一瞬の間に、俺の頭の中では何度もシュミレーションされ、ほとんどのケースで俺は『……何言ってるの? 大丈夫?』と心配されていた。優しさが余計に辛い。


 だが、こんなところでチャンスを逃すわけにはいかない! というわけで、いざ出陣!


「マノンはさ、前世とか転生とか信じてる?」

「……急になによ。まぁ、それなりにってところかしら。肯定も否定もしないわ」

「じゃあ質問なんだけどさ。……マノンって転生者?」


 聞いてしまった!! 信じてはいないって言われたのに聞いてしまったよ。


 なぜか緊張が走って、うっすらとかいた汗がやけに冷たい。俺の問いに対するマノンの反応は……。




 ――無、だった。

 全くの無表情。初めて見るその顔につい目を見開いて声を漏らした。


 整った面も相まって、近い位置にあるマノンの顔は少女の人形のように目に映る。


「……転生なんて、しないわよ」


 地面に落とすように呟かれたその言葉。同時に窓の外ではポツポツと雨が降り始め、だんだんと勢いをましていった。


「しないってどういうこと?」

「……分からない」

「……マノン? お前大丈夫か?」

「平気よ」

「平気って……真っ青だぞ、明らかにおかし」

「私! ……用事があるのを思い出したわ。またね、シリル」

「あ……」


 マノンは、それだけいって早足で去っていった。なぜか、追いかけようとは思わなかった。




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