第14話


 人気のない廊下から見える、その小さな空間。目立たずひっそりと、だが堂々と咲き誇る花が印象的なそこは確かに中庭へ続く通路の入り口だった。


「なら、ここに道があるはず……」


 あまり整備されていない生え散らかった草をじっと見つめる。すると、何かに押しつぶされたような跡が見つかった。苗木を掻き分けたような、折れた小枝も地面に落ちている。


 ……やっぱり。


 ここが、大抵の人では見つけることのできない通路。隠された中庭へ行く唯一の経路。


 この道を見つける手段はだいたい二つ。

 俺のように前世の記憶から元々知っているか、自力でここを探すか。


 一つ目はそのまま。二つ目に関しては、正直そんなやついるのかと俺が疑いたい。


 このルートを見つける難易度は、あのめんどくさいオタクの姉がどうしても見つけられないとプライドを捨てて攻略サイトに頼ったほど。


 というか、本来この廊下自体立ち入ることが難しい場所なのだ。

 ここはとある研究室へ繋がる廊下で、ある科目の一定の知識を持ち、加えて先生が見ている中で指定の薬品を作るという工程を経ないと歩くことすら許されない。

 乙女ゲームの中で、ここは超がつくほど難易度が高いのに得られるアイテムや情報、イベントはかなりしょぼい、と人気のないエリア。


 俺は特に理由もなく、うわ俺って覚えようと思えばなんでもできるすげ〜!! と調子にのって許可をもぎ取った。今考えるとすごく恥ずかしい。何してんだ過去の自分。


 だがまぁ、人が少なく転移に向いた場所なのでらあのときがんばっておいてよかったなぁとしみじみ思う。




 話を戻すと、そこまでの知識を持った人が俺以外にいるのだろうか。

 ……決して自惚れている訳ではない。


 俺は転生し、以前の知識を持っているからこの場所が分かった。それに、このエリアに入るための条件はかなり難しい。遊び半分で入ろうとしたものなら、試験のイカレ具合に簡単に落とされる。


 入れたとしても、ここをわざわざ探す人なんて俺と同じ転生者しかありえな……。


「……そうか。俺以外にも転生者はいるのか」


 そりゃあそうだ。自分だけが記憶を持って生まれてきたなんて決めつけることはできない。他にも乙女ゲームのことを知っている人が転生してきている人がいてもおかしくはないのだ。


 ……うっわ、俺めちゃくちゃ恥ずかしいじゃん……俺だけが転生者で前世の記憶があると思い込んでるとか、ほんとに自惚れてる……。


 穴があったら入りたいとはこういう感情のことか……とつい遠くを見つめた。どうやら俺は自分だけが特別! という厨二病を患っていたようだ。早急に帰宅したい。


「……ん? じゃあマノンは……」


 あの日、マノンは中庭にいた。


 この通路を見つけられるのは転生者で、頭が学年上位に食い込むほどの実力者。俺とは違い転移魔法は使えない。


 ……マノンは、転生者なのか?



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