第12話
「……では、今日はここまで。各自復習を怠るなよ」
考えごとをしていれば、時間はあっという間に過ぎていく。何も分からないまま時だけが過ぎ、手がかりも掴めないまま今に至る。
終わりの言葉で机に突っ伏していた身体を起こし、グッと背伸びをひとつ。腕を後ろへ伸ばせば、指先に何かが当たった。
「ノート真っ白だぞ。頭良い自慢でもしてんのか? 俺は授業なんざまともに受けなくてもいい点取れますって? ふざけんな!!」
「俺何も言ってないよな?」
「ディーノはめちゃくちゃ真面目に授業受けてノート取って、それで天才シリルだけじゃなく、何もやってない私にさえ負けるんだもんね。くやしいよね。嫌だよね。不甲斐ないよね。……ん、ふふふっ」
「お前嫌い」
まっさらなノートを指さして声を荒らげたのは、同じクラスのディーノ・コルベール。
身体が大きくて肉体派っぽいのに、一番得意なのは弓矢などの遠距離魔法。つまり後方支援だ。デカい身体で小さな弓を引いているのはちょっとおもしろい。
そして、そのディーノを怖気付かずに煽っているのは、同じく一緒のクラスのミラ。さらりと揺れる銀の髪が美しい、光の魔力を持った少女だ。
ミラは庶民だが、光の魔力を発現させたことでこの学園に通うことになった。……いや、通わざるを得なくなった。
光の魔力はとても貴重なもの。持つものが五十年に一人現れるかどうかわからない、そんな数少ない魔力なのだ。
だからこそ、他国へ渡すわけにはいかなかった。今は大っぴらに戦争をしてはいないが、火種が落とされればいつでも破裂する可能性がある。
そのため、傷を癒し、自己回復力を高め、戦いを有利に運ぶ光の魔力を持つものは、国として保護しなければならない。
ティーネはどうだか知らないが、ミラは学園に通うことを拒否していたそう。幼い双子の妹と弟を置いていけない、そう言ったものの国が光の魔力を逃がすわけもなく、半ば無理やり連れてこられたとか。
数年経った今は休暇がある度に家へ帰り、双子と遊んでニコニコで帰ってくる。機嫌が良すぎて逆に怖いくらい、その一週間は笑顔が絶えないのだ。
まあ逆に言えば、ミラは普段笑顔がほとんどない。今もディーノを煽りながら無表情である。正直少し怖い。
「あ、そういえばね。ティーネが私より才能あるって言われてるらしいけどそれはご存知で?」
「……本当か? 聞いたことないな」
「ミラのほうが明らかに上だろ」
この世界で魔法とは、あらゆる物質に存在する魔法の粒子と呼ばれる目に見えない力を扱う技術のことである。
光の魔力といっても、どれだけ上手く扱えるかはその人次第。つまり才能や努力がものを言う。
ミラは歴代でも強い魔法を使える。才能はもちろん、庶民として学園に入ったからには貴族を負かしてやるという強い気迫を感じる勉強っぷりで努力も十分。
決して、決してヒロインを馬鹿にしているわけではない。だが、光の魔力を持つものとしては、ミラのほうが格上ということだ。
「そんなの知ってるわよ。……でね、その噂を流してるのが――」
その名前を聞いて、つい大きな声がでた。
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