第10話
―
――
「…、…で…?………シリル? 大丈夫かしら?」
「え、あぁ、大丈夫」
魂の抜けた俺を心配そうに覗き込むマノン。
昔に戻れたら、なんてよく考えるが戻ったところで俺は何をするだろうか。
コーネリアは昔から真実の愛に憧れを抱いていた。
あの歳の俺の誕生日に、手に握っていた美しい桜をくれた日からだ。それより前は真実の愛なんて気にもしないような、お馬鹿ながらも女の子らしくない現実的な子供だったのに。
それに対して、俺やマノンは昔から何も変わらない。少し環境や考え方が変わっただけで根元は同じ。
真向かいの隈のない顔を見て、もうこんなに経つんだなとしみじみ思う。
「あの頃はマノンの方が背が高かったんだよなぁ。今では当たり前のように逆転してるけど」
「い、いきなりなんの話を!? 別に今だって負けてはいませんわ!」
「負けてるだろ。変な意地はるなよ」
「はってません!!!」
もう大人のような扱いを周りから受けているのにも関わらず、からかわれるとすぐムキになって反論するのも変わっていなくてついホッとした。
怒ったマノンをみた俺がニヤニヤ笑って、コーネリアがクスクス口を抑える。そんな三人の姿が、今ここにないのが不思議で仕方がない。
なぜ、なぜと問うても答えは誰もくれやしないのだ。
マノンと話しているうちに大分落ち着いてきた。
久しぶりに二人きりで話して、前の感覚を思い出すことも出来たようにも感じる。
「じゃあ、もう落ち着いたし一人で平気だから。護衛の首が飛ぶ前に帰ってあげてくれ」
「ならあなたはどこにいくつもり? ティーネ様の周りの方から逃げてこんなところに来たのに、他に行き場はあるのかしら?」
図星をつかれてつい黙る。
どこか人気のない場所、と考えてはいたがティーネは学園中のいわばアイドルのような存在。
好きという明確な恋愛感情はなくとも守ってあげたい、かわいい、というあやふやな目的の生徒は案外多くいるのだ。
たとえ人通りのないところだとしても、誰がティーネ過激派かは全く分からない。
最近は俺をあからさまに睨んでくるやつや、ナイフを投げたり実技の授業中にわざと魔法を向けてくるやつと様々なレパートリーで外敵を殺そうと一生懸命になっている。
ティーネは俺のことが好きだという噂が大々的に広まったからなのかは知らないが、さっきのように転移魔法を使えなければ危なかったケースもある。
まぁつまり、そう簡単に俺が安全でいられる場所はないということ。
「これからのことについて少し提案があるのだけれど、聞いてみる?」
「ぜひ聞かせてくれ」
「簡潔に言えば、この一言でまとまるわ。
――コーネリアを、取り戻しましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます