第8話
一見板のような光るそれ。私を大人にしたような……いや、実際そうなのだろう人物が中にいた。
(なんで、私がいるの……?)
相変わらず頭はズキズキと痛む。それとは別に、胸の中でなにかもやもやした何かが湧き上がってくる。
そこに見えた私は汚い笑顔を浮かべながら誰かと話していた。泣きそうな顔をしたすごくかわいい一人の女の子。見たことはないけれどなぜかあったことがあるような、不思議な感覚がする子。
もしかしたら、これは未来でおこる出来事なのかもしれない。そう判断して、魅入るようにそれを見つめた。
ぼんやりとだが、声も途切れ途切れ聞こえてきた。
『……あなた、邪魔なのよ。そんな穢らしい身分で殿下に近づこうだなんて……』
……殿下? 将来の私は、シリルと婚約破棄をしているのだろうか。そう考えて、否定する。そんなことある訳ないじゃない。こんなに大好きなのに、殿下が好きになるなんてありえない。
目に涙を溜めて走り出す女の子と、取り残された私。そして暗転。
はっきり言うと、こんなふうにはなりたくないな、と思った。
ああ、将来のシリルはどこにいるのかしら。きっと今よりもかっこよくなって、背も高くなっているに違いないわ。
――そう考えているうちに、ぱっと場面が切り替わる。
そこにはキラリとひかる小ぶりなナイフを手にした私と、ぼろぼろの壁に寄りかかって苦しそうに私を睨みつける未来のシリルの姿。
にこり。そう音がつきそうな、作られたようなわざとらしい笑みでゆっくりシリルへ近づいていく。
身体が動かないのか……なにかの、魔法を使われたのか。表情だけが動いて逃げる気配はなかった。
一歩、また一歩。
ざり、と明瞭な音を立てて近づくたびに嫌な予感が止まらない。
(なにをする、つもりなの?)
苦しげな顔で、成長したシリルが叫ぶ。
『コーネリア!!! っ、いきなりなにを』
『……ねぇ、シリル。私ね……真実の愛をみつけたの』
固まったシリルに抱きつくように倒れ込む私。
耳元でそう囁いたかと思えば、じわじわと地面に広がっていく赤が目に入る。
……だんだんとシリルの息が、聞こえなくなって、力なく垂れ下がる腕は真っ赤に染まって、いつの間にかいなくなって、しかいが、まっくらに、――
「――あら、おはよう。なにが見えたかしら?」
「なんで、……え、ぁ、なんで、な、んで、なんで?」
「なんで? そんなの知らないわよ。でもこのままいけば、あなたはだぁいすきな婚約者を殺すことになる。そんなの嫌でしょ?」
「…い、や」
「なら、がんばらなくちゃ。未来のあなたが婚約者を殺したのは、この国の殿下を真実の愛だと思っているから。ように真実の愛に婚約者が邪魔だったのね。なら、そうならないためにあなたはどうすれば良いの? 」
「…わたしが、殿下をすきにならない」
「それはダメよ。それじゃああなたの好きな人は守れない」
「じゃあ、どうすればっ!」
「……私がおしえてあげる。その通りにしていれば、あなたは大切な人を失わずに済むわ。だから、」
いい子にしてね。
その言葉に、私は勢いよく頷いた。
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