第5話
くすくすと笑う俺に、マノンは当然だと言わんばかりの表情をした。
「お褒めいただき光栄ですわ。私は兄様達のようにできた人間ではありませんから、このくらい許してほしいわ。あなただって昔から真実の愛が苦手でしょう?」
「それ、いつから知ってた?」
「昔からって言ったでしょう? 私、趣味は人間観察なの」
「……うわぁ」
うわぁ……。
心の声がついつい漏れた。だがそれなら先程の転移魔法についても納得ができる。
顔色が悪いのはどういう時か、転移魔法を使うとどうなるのか、それ以外にも色々なことを知っているんだろう。それが趣味になるのは理解が及ばないけれど。
……だが、自分の知らないうちに観察して癖などを見られていると考えると背筋がぞわりとする。何故かは分からないけど生理的に、というか。あまり俺のことは見ないでほしいかも。
そんなことを浮かべながら、素朴な疑問を口にする。
「でも、マノンが真実の愛に否定的だとは思っていなかったな。コーネリアはよくお前に話していただろ? こういうシュチュエーションが〜みたいなの、嫌がる素振りはなかったような……」
「シリル、あなたこそ趣味は人間観察って言えるわよ。どうして私まで見ているの」
「いや別にコーネリアを見てたわけじゃ、」
「ハイハイ、言い訳は要らないわ。質問に答えると……そんなの、嫌がる素振りなんてできる訳ないじゃない。あの子すぐ泣いちゃうんですもの」
「あれ、幼児の扱いかなにかかな?」
はぁ……と肩を竦めながらそういうものの、今でもマノンはコーネリアと仲が良い。末っ子のくせに世話焼きなので、よく転んだりするコーネリアから目が離せないのだろう。だがそれ以前に二人は相性がいいのだ。
人間観察のくだりはいいとして、すぐに泣くのは完全に同意。
涙が驚くほど透明で、泣き方が綺麗だったなぁ、なんてのを漠然と思う。
コーネリアはなんというか、全体的に幼い。精神的にも肉体的にも、同い年とは思えないような風貌をしている。
マノンも成長は遅いが、それは身長など外面のもの。
だがコーネリアは中身まで本当の子供のよう――実際成人はしていない――で、駄々を捏ねたり真実の愛に高い理想を持っていたり、……優しくしてくれた辺境の男爵家の子息と恋に落ちてしまったりと、お転婆ではすまされないようなことも何度かしている。
……初めてコーネリアと出会った時は、令嬢っぽいただの女の子だった。
真実の愛にちょっぴりの憧れを抱く、純粋で透き通った清流のような今では想像できないほどかわいらしい少女だったのだ。
なのにある日、急に人が変わったように態度が一変した。
コーネリアがなにかに取りつかれたようにおかしくなったのは、きっとあの事件から。
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