第4話
「ねぇ……こんなところで何をしていらっしゃるの?」
「……っはぁ、脅かすなよ……!!」
まだ心臓がバクバクと音をたてている。
長いストレートの金髪をカーテンのように垂らし俺を覗き込んできたのは、婚約者関係で馴染みのあったこの国の王女さま。
俺を狙ってくる筆頭、殿下の実の妹である。
元を辿れば、幼少期から交流の多かったコーネリアが友達として紹介してきたのが始まり。
王女さま――マノンは幼い頃から王族らしいキラキラオーラがなく、その美しい金髪がなければ庶民ですと言われても分からないほど貫禄がない。個人の意見ではなく、民衆の目から見てだ。だがその分色々な人の立場に寄り添い、考えを理解するという点では便利なのかもしれない。
同い年のはずなのに妙に幼く見えるマノンを見上げる。
その背後にいつもいる護衛の姿はなかった。
「なんで護衛も連れずここにいるんだよ……」
「撒いてきたわ。邪魔なんだもの」
「今頃必死に探してんだろうなぁ」
顔や名前すら知らない護衛に同情が湧いてくる。こんなやつが護衛対象だなんて、大変すぎて胃に穴が空く自信しかない。
「…………」
まずい、話題が途切れた。
どちらも一言も話さない、微妙な空間が生まれる。
……コーネリア繋がりで会話をするようになった、友達の友達みたいななんともいえない希薄な関係。
コーネリアと婚約破棄をしたことは、きっと知っているのだろう。本人から聞いた、はずなのだが。
「……」
何故かじっとこちらを見つめ続ける、少し上の星のような瞳。
ああ、沈黙が気まずい。
マノンとコーネリアは昔から仲が良かったし、よく二人で話しているのを学園でも見かけた。そんな、自分の親友と婚約破棄した男と今でも関わろうとするなんてマノンは何を考えているのだろうか。
分からないことだらけだ。
マノンはあの殿下の妹であの元婚約者の親友という、俺の避けたい人ランキングトップ2を飾る二人との繋がりが強い人物。今すぐにこの場から立ち去りたいが、俺にはあまり逃げ場がない。しかもまだ歩けるほどに回復しておらず、この地獄のような謎空間から抜け出す手段は存在していない。つまり詰み。
ならば……! と意を決して、マノンに声をかけてみる。
「……あ、あのー…マノンさま? 顔になんかついてます?」
「シリル、あなた転移魔法使ったわね」
な ぜ バ レ た 。
報告されないだろうな……と引いてきた汗が再び出てくる感覚がする。
原則、よっぽど緊急時でない限り学園内での魔法の行使は禁止されている。破った場合は最悪退学処分にまでされてしまうため、守っているやつの方が多いようだが。まぁ俺は使うんだけどな。
だから誰もいないと確信できる中庭に転移したと言うのに、どうしてそう判断することができたのだろう。何を見てそう判断したのか是非とも知りたいものである。
「目を逸らしてもダメよ。シリルの顔色が悪い時は
体調不良か転移魔法、どっちかなんだから!」
「そんなことないと思うよ??」
さっき俺の顔を見つめていたのは体調不良かどうかを見極めていたらしい。
……うん、それにしても、なぁ。
「……俺がコーネリアと婚約破棄したって、知ってるんだろ? なんでまだ俺と関わるんだ」
俺の言葉に、キョトンとした顔をするマノン。
……いくらなんでも、優しすぎはしないか。
コーネリアがいたからとこれまで話していたが、もう俺との接点はないに等しい。
昔からの腐れ縁だとしても、親友とその婚約者、選ぶなら断然コーネリアだろうに。
「……あなたは、何を勘違いしているのかしら? 私は『真実の愛』なんてバカバカしい理想に酔った人が大嫌いなのよ。それに、コーネリアとの婚約破棄と私とシリル、なんの関係があるの?」
にこり、と綺麗な王族の笑みを向けるマノンは、俺が知らないだけで案外毒を吐く人間だったらしい。
その可憐な唇からあんな嫌味が出てくるなんて思ってもみなかったもので、俺はぽかんとだらしない顔を晒したあと、小さく笑ってしまった。
「お前、やっぱり最高だな」
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