後日談〜王妃視点〜
私が、王子の言うことに反論出来なくなったのはいつからだろう。
そうだ、初めは王子が3歳くらいの時だ。
出産後、私は体調を崩し、子育ては乳母に任せっきりであった。
ようやく体調が戻ってきて、週に何回か王子と食事を共にすることが許されるようになった。
国王陛下はお忙しくて、めったに王子と食事を共にはしなかった。「王子のことはお前に任せる」という陛下の言葉が、私にはプレッシャーだった。
その日は王子と私の2人で朝食をとっていた。
食事中に、野菜を残す王子に私は「野菜も残さず食べなさい!国の民が一生懸命作ってくれた食材です!」と厳しく言ってしまった。
すると王子は「お母様なんて嫌いだ!優しい乳母が好きだ!お母様は厳しいから、嫌いだ!」そう言って大泣きしてしまったのだ。
私は、お腹を痛めて産んだ我が子に、嫌いだと言われたのが非常にショックだった。乳母に甘やかすなと指示を出したが、嫉妬していると思われるのも癪で強くは言えなかった。
そうして、私はいつしか王子に嫌われ無いような発言しか出来なくなっていった。
私が甘やかしたせいだろうか·····王子の勉学が上手く進まないこと、彼の性格が幼稚なことは薄々気づいていた。
だが、私はそれらから目を逸らした。そして、その葛藤や後悔を、王子の婚約者であるイザベラに向けた。
イザベラはとても優秀であった。だが、その仮面のような笑顔の下で何を考えているのか、不気味であった。
そうだ私も昔、陛下の婚約者だった頃に、とてつもなく苦労をした。義母に散々意地悪をされた。メイドは厳しい人間に変えられ、語学も4ヶ国語も覚えさせられた。家庭教師に鞭で打たれるのは日常茶飯事だった。
イザベラも私の苦労を知るべきだ。私と同じように苦しむべきだ。
そう思っていた。
そんな私の所に、王子がやってきた。
卒業パーティーを終えてから王子は、側近達を一新して、何やら精力的に活動しているらしいとは聞いていた。
国王に似たエメラルドグリーンの王子のその瞳には、強い意志が宿っているように見えた。
「母上。母上がイザベラにした事すべて、俺は知っています」
私は、王子に嫌われてしまうかもしれないという恐怖で固まりながら、「イザベラが何か貴方に言ったのですか?」と問い返した。
しかし王子の返事は意外なものだった。
「·····いいえ違います。イザベラが俺に告口したのではありません。彼女は『王妃様のような素晴らしい方になる為に頑張ります』としか言わないです。俺が勝手に調べました。俺はイザベラが少しでも苦しんでいる様子をみたら、その背後関係を調べずにはいられないのです。母上が今までお祖母様から受けた苦しみと同じ事を、イザベラにしている事を俺が調べました。母上の今までの苦しみ、俺が受け止めます。母上の今までの頑張り、俺が尊敬します。だからどうか、イザベラには優しく接してやって欲しいのです」
私は、王妃教育を受けてから今まで1度も人前で涙を流すことはなかった。
だが、ボロリと右目から雫が流れ出たのが分かった。
自分の内側で、情けなさ、後悔、悲しさ、羞恥心、そして何より王子の成長を目の当たりにした喜びが渦巻き、涙となって溢れ出た。
1度流れ出したものは止められず、両目からボロリボロリと涙が流れるのを、私は慌てて手で抑えた。
そんな私に王子がハンカチを差し出して言った。
「母上が、私を命懸けで産んでくださった事に心から感謝しています」
私はハンカチを受け取りながら、少し笑って「あなた、変わったわね」と言った。
すると、王子は「俺が変われたのだとしたら、イザベラのお陰です」そう言って、大人っぽく微笑んだ。
私はこの後、イザベラを茶会に誘いひたすら謝るのだが、「王子の隣に今立てるのは王妃様のお陰なのです」と花のようにニッコリ微笑むイザベラに、私は見とれてしまうのだった。
その後、私は性格美人のイザベラの虜になり、実の娘のように可愛がるようになる。仕舞いには、王子から「イザベラは俺のものですから」と嫉妬されるようになるのは数年後の話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます