第7話 帰宅

 廃遊園地への行きは電車を使ったが、流石にまだ始発がない時間帯だったので歩いて帰宅していた。

 朝日が目に眩しく、気分は憂鬱で自然と姿勢も猫背になっていた。

 しかし、隣を歩く茨戸はまったく堪えてないようだった。


「お前は元気そうだな?」

「鍛えてますから」


 むんっ、と肘を曲げて力こぶを作って見せる。

 やらかそうな二の腕が白く輝いていた。

 家に着いたときには、すでに日が昇ってしばらく経っていた。

 この時点で嫌な予感はしていた。

 霊媒体質になってから、虫の知らせがもはや予知レベルになっている。


「ずいぶんと、お早いお帰りで……!」


 背筋が凍るかと思った。

 一文字一文字、言葉を区切った威圧感のある声だった。

 目の前に鬼がいた。

 身長は俺の胸の高さぐらい。艶やかで、良く手入れされた黒髪が朝日に煌めいていた。毎日、兄に手入れをしてもらっている、本人も自慢の髪だ。

 そして、それは……俺の妹だった。

 こちらを見る冷ややかな目と、煮えたぎる怒りをどうにか抑えている声に戦慄を覚える。


「お兄ちゃんも高等部、つまり高校生なわけですから、に興味があっても仕方がありません」


 丁寧語だった。

 普段、妹にそんな丁寧な言葉を使われることなどなかった。


「ですが! 朝帰り! しかも! 私の! 同級生! 中等部!」


 怒りのあまり、文章を構築することすら諦めたらしい。

 さすがにこのままでは会話にならないし、言い訳……もとい、誤解を解くことができない。

 なので、一旦、落ち着かせることにした。


「まあ、落ち着けって。そんなんじゃ、話もできない。OK?」

「OK!」


 全力で殴られた。



 その後、シャワーを浴びて妹と茨戸と一緒に学校へ向かっていた。


「まさかお兄ちゃんが、ロリコンのヘンタイさんだったとは。いくら明理ちゃんがカワイイからって中等部はないんじゃない? 妹の同級生だよ? 同級生がお義姉ちゃんになるの複雑だよ?」


 俺を殴ってスッキリしたのか、今度は息もつかずにマシンガントークをかましてくる。


「あっ! 明理ちゃんがダメって訳じゃないよ! 同級生とは思えないぐらい大人びているし、家庭科の調理実習を見たところ、家事も完璧。このダメダメお兄ちゃんと仲良くしてもらってるし」


 茨戸が黙って苦笑いしているのを何か勘違いしたのか、妹が慌ててフォローした。


「でも、お兄ちゃんは普段は落ち着いてるけど、いざって時にやらかすからなぁ。年上の包容力がある人が理想なんじゃないかと私は思うのです!」


 知らない間に俺の理想の相手まで決められていた。


「そう言えば今日は日直だった! 明理ちゃん、また教室でね! お兄ちゃんは反省して!」


 ぴゅー、と中等部の校舎まで走っていった。

 妹が見えなくなると、どっと疲れが出た。

 今日の授業は寝ないことを目標にするしかない。


「まるで嵐だな」

「妹に愛されてますね。……おにいちゃん?」

「勘弁してくれ……」


 茨戸がクスクスと笑う。

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