第6話 違和感
「結局、あの札は何だったんだ……」
「おそらくですけど、『かまど
俺の独り言に茨戸が律儀に答えてくれる。
釜戸の神様なのは、名前から分かった。だが、神というには――
「力が弱かったですよね。神力も感じませんでした。ですので、名前のない精霊の類があの厨房に住み着いていたのではないかと。本来かまど神を祀る札が、何らかの影響で変容したのだと思われます」
調べようにも、もう跡形もありませんから、とそこに旅館があったことさえ分からないほどの有り様を尻目に言った。
責められているような気がして、慌てて弁解する。
「そ、それは、仕方ないだろ!? コントロールするのは難しいんだ! あれでもかなり力を抑えた!」
霊媒として全力を出していたら、増幅された木気がこの土地を地盤ごと朽ちさせていたかもしれない。
そうなれば廃遊園地ごと崖崩れで、俺ら二人もお陀仏だっただろう。
「ええ、ですから、ありがとうございます。先輩。先輩のおかげで怪異を祓うことができました」
「……ただ、ぶん殴っただけだ」
「それでも先輩がいなければ、祓うことができませんでしたから。なんせ私は、出来損ないの陰陽師ですから」
茨戸は寂しそうな、そして少し泣きそうで、困ったような顔で言った。
出来損ない。茨戸は陰陽術も使えるし、怪異に対抗する知識も十二分にある。
だが、彼女は怪異を滅ぼすことができない。
それが彼女の抱える問題。俺と協力する理由。
なぜ、彼女が怪異を滅ぼせないのか、理由は俺も知らない。
この話が出ると、あの泣きそうでどうしようもない顔をしているのを見て、問いただそうとは思えなかった。
「俺も助かった。お前の知識と陰陽術にはいつも助かってる」
だからそんな顔をするのは止めてくれ、と言う気持ちを言葉に込める。
「――はいっ!」
少しは気持ちが伝わったのだろうか、少し笑って彼女は頷いた。
「……過去にこの旅館で起こった火災は、あの札に宿ったかまど神モドキが原因だったのでしょう。ですが、あの程度の力で全焼するほどの被害が出るのでしょうか? しかも、いくら先輩が強力な霊媒体質と言っても、世間話程度で遠方から霊障が起こるほどの力があったとは思えません……」
茨戸がぶつぶつと独り言を呟いていた。
確かにこの廃遊園地には妙な点がある。
旅館を含めこの廃遊園地では、幽霊に一体も出会わなかったことだ。
それはあまりにもおかしい。
肝試しをするような場所で、一体もいないなんてことがあるのだろうか?
しかも、ここは、原因不明の火事で大勢の人が亡くなったはずなのに。
それとも、誰かがここの幽霊を全て浄化した? 旅館の札だけを残して?
考えたところで答えは出なさそうだった。
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