第4話 打開

「これが本当に打開策なのか!?」

「問題ありません! 少し力技ですが!」


 少し? の間違いだろ。

 俺は茨戸と一緒に、閉じ込められた旅館の廊下を全速力で走っていた。

 旅館内の代わり映えのしない内装が、尋常ではない速度で流れていく。

 まともな人間の出すことができる速度をはるかに超えていた。

 時速何十キロなのか考えたくもない。


「無限に続く道、というのはあり得ません。基本的に怪異が人を迷わせる常套手段は二つ。一つ目は空間を歪ませることです。輪のように歪ませるか、継ぎ接ぎで無限のように見せかけます。もう一つは夢を見させることです。悪夢の中なら無限でもなんでもありですから」


 この場所から出られない、と思わせることで迷い人を絶望させるのが、この手の怪異のやり方らしい。普通の人は同じ景色を見続ければ、かなり精神に来るだろう。

 そして抵抗も出来ないほど疲れ果てた獲物を狩るのだ。


「曲がり角があったはずの道が、まっすぐになるのは、『曲がられたくない』ということなんです」

「つまり?」

「曲がり角の先にこそ、この怪異の核があります。曲がり角が現れるまで全速前進です!」


 そういえば、この後輩はこういう奴だった。

 見た目は華奢で、どこかの令嬢のように落ち着いて見える。

 実際、中等部では同級生に、姫様のように扱われているらしい。

 しかも、勉学にも秀でて、運動も得意。

 だが、その本当の性格は、猪突猛進、粉骨砕身、全身全霊。

 何事にも全力で、曲がったことが大嫌い。


 常闇の魔女がこいつを『イノシシ娘』と呼んでいるのも無理はないと思った。


「先輩! 見えましたよ!」


 延々と続くと思われた、この廊下も終わりが見えてきた。

 空間に小さなひび割れが現れ、その隙間から曲がり角が見える。

 走ってきた勢いをそのままに、曲がり角の柱に手を引っ掛けて、部屋に飛び込む。


「ここは……厨房か?」


 土を固めて作ったような釜戸がいくつも並んでいた。表面は薪の煤のせいか、真っ黒になっている。

 石でできた四角い棺桶のような容器には水が溜まっていた。

 他には、人の身長ほどはありそうな鍋が、床から一段低い所に埋まっている。


「ここが、この怪異の核がいる場所。先輩、旅館で起こった火災は、原因が未だ解明されていないそうですよ」


 茨戸の声が広々とした厨房に響いた。

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