第14話


「・・・琉生、ちょっと……」


 見覚えない、小柄なボブヘアの女の子が、みんなの輪から離れた場所から琉生に声をかけて、〈こっち、こっち〉と手招きしている。


…………あんな子、この施設にいたっけ?



「……ねえ、華羅ちゃん?あのお姉ちゃん、誰かな?」


 小さいながら高校生の明に負けないで視線を合わせ、バチバチと火花を散らす華羅ちゃんに聞いてみる。



「あのおねえちゃんは莉夢りむちゃん。先月ここに来たばかりなんだよ〜。あまりおねえちゃんの事は華羅にもわかんないけど、琉生おにいちゃんとは仲がいいみたい」


ふ〜ん……先月、来たばかりかぁ……。

じゃあ、あの子はあまり関係は無い…か?   



見ているとあの二人……随分仲が良さそうだな…彼女の方から琉生に耳打ちして何か話してる。



「……ちょっと、瞳ちゃん……何処見てんのよ?!」

「そ〜だよぉ。おねにいちゃんは、華羅とおばねえちゃん、どっちをえらぶのぉ?」



・・・・・へ?!


な、なんで、そんな話が出てきたの??



「ふぁらちゃん……なんのはなしをしてるのかなあ?おにいちゃん、よく、わかんなぁい☆」

「…気持ち悪いわねえ。どこでそんなぶりっ子ポーズなんて覚えてきたのよ」


いや…何処でってあーた(汗)

自分の子供に言うようなセリフ・・・

普通に生きてきたら普通に覚える事だと思いますが?

…まあ、ポーズはやりすぎかもしれないが



「……そんな事より明。なんでそんなに目くじらを立てる??

もしかして、ヤキモチか?」


なーんて、余計な事を言ってしまったのはマズかった。



「……こんの、馬鹿あっ!」


ばっちーーーんっ★


 いくら華羅ちゃんが抱き着いていたとはいえ、合気道初段以上の実力を自負している俺が、避ける事も受け流す事も出来ないほどの鋭い平手打ちの一撃をモロに喰らい・・・。俺は、その場で見事にひっくり返ってしまった。



「知らないっ!私は帰るっ!!」


「え?!あ、お、おい?チョット待って」



 とにかくこのままじゃあ話が変な方向へいきかねないし、やっぱり明の協力は欲しい。

ひっついてる華羅ちゃんをなんとかひっぺはがして琉生に預けた俺は、走って明の後を追った。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ 





 明に追いついたのは、施設からほんの少し離れた辺り……5分くらい歩いたところにある、自販機が並んでいる場所だった。



 で、そこには明だけじゃなく、例の不良部の皆さんがいた。


う〜む・・・このパターンは、お約束か?


だったら、あんな連中はさっさとやっつけてしまって話を進めないと。


 俺は走る速度を上げて連中を瞬殺するつもりで拳に力を込めた。






「・・・だから、頼むよ姉さん。頼むから瞳に取り入ってアイツから美和さんに取り次いでもらえるように説得してくれぇ」


ずっしゃああああああぁっ!!!


 絡まれているとばかり思っていたが、明は一切ひどい目にはあわされていなかった。

それどころか、不良部の皆さんは明に深々と頭を下げ、へつらいながら何かを懇願していたのだった。


 連中を殴り飛ばすつもりで飛び込んだ俺は、コントロールを失って地面にヘッドスライディングしながら彼らの手前を横切った。



「あら、瞳ちゃん。早かったわね」


「・・・なんだ?どーなってんだ?これわ」


地面にうつ伏せたまま、俺は明に状況説明を求めてみた。



「あのね?この人達にお願い事されちゃってね〜…何とか貴女に取り次ぐように仲介してくれって、ね」


「あのね…アンタ達にはプライドっちゅーもんは無いんかい?!」


がばっと跳ね起きながら、不良部のリーダーに向かって声を荒げると



「プライドでは美和さんを振り向かせる事は出来んからな」


 腕を組み、堂々とした態度でそう宣う彼に俺は深い溜め息をついてから。

あえて意見を言わせてもらうことにする。



「だからさ〜…その潔さ、ちゃんとした方向に向けろよ〜。第一……ん?なんだ??」



 連中の視線が妙なことに気がついた俺は、連中の視線が何処に向かっているのか確認した。


あ、連中も気がついちゃったみたいだな。



「・・・噂はほんとうみたいだな、瞳。オメエ…女性になってやがんのか?」


 5人の視線は、俺の顔じゃなく胸元へ注がれている。

 ま、1番わかりやすい部分だから仕方はないが、正直じろじろと見られるとあまり良い気はしない。

そして、短絡な連中が次に考えることもよく、解る。




「・・・今なら、勝てるな?」


ほ〜ら、そう来る(苦笑)




「覚悟しな?オメエに関しては、女性になったからって言っても手加減はしねえからな?」



・・・はぁ……やれやれ。

やっぱ、そう来るんだな?!


 手を組んでぽきぱきぺきと指を鳴らしながら歩み寄る連中に、俺はすっかり取り囲まれてしまった。




絶体絶命ーーーー。












・・・に、なる、訳がない。


それも、また、お約束、だろ?



へべろ〜〜〜〜ん……。



ものの数分後には、不良部の皆様は地面に累々と転がっていました、とさ?



「懲りないねぇ…俺が女性になって非力になったところを襲おうだなんてセコいこと考えてんじゃないよ。

元々力技を使わない合気道を使う俺に適うはず無いでしょうが?!」


「ねえ?瞳ちゃん。私、ちょっと良いコトお思いついちゃったんだけど」



 ぱんぱん☆とホコリを払う俺に、明が手をひらひらさせながら呼びかけてきた。



「この人達のお願い事が叶いつつ、犯人を炙り出す方法、思いついちゃった☆」


このひとたち…?



 なんだ?コイツラを使って何かするって事か?



「私達は犯人を探し出したい。で、彼らは瞳ちゃんのお姉さんと話がしたい……。

利害が一致する、素敵な提案があるんだけど、なぁ〜…」



んふっ☆と不敵に笑う明大先生。


 その提案は気になるが、彼女はその犯人がどんな事をしているのかまだ知らないはずで。


そんなんで、大丈夫、なのか?




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