第12話
・・・。
俺達、
まあ、子供たちに
「クリスマスにサンタさんからプレゼントがもらえるとしたら、何がいい?」
・・・なんて質問をすれば、答えないひねくれすぎた子供はそんなにはいないわけで。
ましてや、探偵団として動いてくれている子達は、なんだかんだ言っても施設の子供達の中では取りまとめ役とか、お世話役とか、人気者とかの部類に入るしっかりさん達だから、質問された子供たちも素直に答えてくれているようだった。
その一方で俺と明は施設の職員さん達にあたり、差し障りのない質問をいくつかさせてもらっていた。
「・・・困っていること?そうねぇ…強いて言えば、そろそろお風呂場の壁の修繕をしたいわねえ。古い、木製の壁の上に防水加工をしただけの物だからすぐに防水が効かなくなって、カビが生えちゃうのよ。
でも、水回りは工賃が高いから…」
「そんな事こそ、うちの姉ちゃんに言えばほいほい言いながら業者を呼んで直してくれますよ」
「・・・え?プライベートで?
そんな事、どこの家庭でもそうでしょうけど、この時期から年末年始まではお金がなんだかんだ言ってかかるのよ?あなたも家計を任されているんだから、それは解るでしょ?そんな事まで貴女のお姉さんに頼むわけには……って、どうして貴方、女の子になっちゃったの?」
・・・・・。
やっぱ、だめかぁ。
職員さんにプライベートの話を聞けば、大なり小なりこんな感じの会話になって、そして、俺の話題へシフトチェンジされてしまい…簡単には聞き出すことは出来ない。
本気でそれを聞き出すつもりなら、よほどの会話術を持つ人間にお願いするしか無いし、身辺調査するなら毛▽のオッチャンみたいなへっぽこでもプロに頼んだほうがまだ確実に手に入るだろう。
・・・と、なれば。
別の切り口で別の情報を手に入れたほうがいい。
さっきから気になっているのは・・・。
ついこの間まではいなかった新人の職員さん達だ。
個人で運営されているここの施設は、お世辞にも潤沢な運営資金があるわけではない。
姉ちゃんの支援金があってこそ、子供達が困ることのない生活が出来ているわけで……。
つい、このあいだまで
「本当は後二人くらいは職員を増やしたいんだけど……流石にうちの経営状態じゃあ難しくてねぇ……
ボランティアさんを受け入れたいけど、なかなか来てくれないのよ。子供達のお世話って、なかなかにしんどいからお給料制にしないと難しいのよね〜…」
・・・なんて垣見さんがぼやいていたばかりなのに。
その、ボランティアさんが…垣見さんが、はしゃいじゃうくらいとびきり若い労働力が3人も加わっていた事だった。
・・・しかも。
…な〜〜〜んか、どぉ〜〜〜っかで、見たことあるよ〜〜〜な、三人組なんだよなぁ…。
う〜〜〜ん……。
「あら?はじめまして、ですねぇ?こんにちわ、お嬢ちゃんたち。
まあ〜♪お二人共女子高校生なんですねぇ……よろしくお願いしますね〜☆」
「おヒゲのおじちゃん!僕のラジコン、壊れちゃったの、直してよ〜」
「あらあら、こんなの私にかかれば……
ちょいちょいっ…とな?」
「わあ、すげぇ!もう、直しちゃった。ありがとう、おヒゲのおじちゃん」
…なんか、この人は見た目に依らず、すんげぇ器用そうだし。
「ふう…重いわねぇ……台車に乗せているのにこんなに重いなんて……」
「そんなもの、ワタシにまっかせてくださ〜い。力仕事は、得意でマンネンよ〜!」
通りがかりの明が、業者さんが置いていったお米を30キロ……一袋10キロあるそれを運ぼうと悪戦苦闘する場に現れたそのお兄ちゃんは台車ごと片腕でひょいっ☆といとも簡単に持ち上げ、台所まで運んでくれた。
いや、台車ごと片腕でって、あんた。
凄すぎるだろ(汗)
そりゃ、まあ、見た目からして筋肉が余ってるんだろ?とツッコミたくなるような筋肉隆々のゴリラみたいな体型と愛嬌のある笑顔で・・・。
いかにも頼りがいはありそうだ、けど…。
「ふう・・・思っていたより大変なのね〜…子供達の世話をするのって。でも、なんか母性が擽られちゃうわ〜」
「おっぱいのお姉ちゃん!おねえちゃんの絵を描いたよ」
「だぁからぁ、その呼び方は止めなって言ってるじゃないかぁ!……あら、上手だねぇ。でも、ここをね、こうして、ああして…」
「わあ☆すご〜い!おっぱいのお姉ちゃん、絵がじょおず〜」
「だから、その呼び方は、お・よ・し☆
あたしにゃしょうこって名前があるんだからねぇ?」
ぱっと見元ヤンキーみたいに金髪で、これみよがしな大きな胸を揺らしながら面倒くさそうな口調なのにちゃんと子供達の相手をする女性……。
いや、どっかで、ぜぇったい、見たことあるんだが。
・・・思い出せん(汗)
「ねえ、瞳ちゃん?なんか、あの人達怪しくない?
なんか、無理に溶け込もうとしているっていうか……それに、ど〜〜〜っかで、見たこと、ある気がするんだよね〜…」
首を傾げながら不信感を顕にする明に
「……やっぱ、そう、思うよな?犯人として考えるなら……」
「もしかしてもしかすると……もしかするかもしれないわ?!」
「何してる……で、」
ころんっ!
不意に、足元で華羅ちゃんがなんにも無いところでつまずいて、転んだ。
「わ、わ、だ、大丈夫か?華羅ちゃんっ!」
こういう幼い子は、とくに女の子は何故かなんにも無いところで転ぶんだけど…なんでだろ??
「わたしはだいじょおぶっ!ふぁらはつよいんだからねっ☆」
……半べそかきそうな顔を必死で笑顔に変えようとしてVサインをしながらにかっ☆と歯を見せる華羅ちゃんに、俺も明も “はぎゅっ☆” とハートが刺激されて、思わずこの子を抱きしめたくなる。
……が、ここで終わらないのが華羅師匠だ。
「みんなの前でつよねえちゃんに投げ飛ばされて泣きそうになってたおねにいちゃんより、ず〜っとつよいんだからねっ☆」
…つい一週間ほど前に、施設の子供達に “突発的に” 教える事になった護身術のお手本として
女性同士のカップルは何かとトラブルがあるらしく……相手に直接当たる事が出来ない事案が発生する度に、俺は彼女の心の鎮痛薬代わりにそういう目に会ってきた。
…で、この間、投げ飛ばされているうちに受け身を取り損なって、左腰の骨盤の端の方の肉の薄い部分を激しく畳にうちつけられて、悶絶した時の事を華羅ちゃんは言っているのだ。
「そ…そおだねぇ…華羅ちゃんはつよい。うん、つよい」
俺はあの時の理不尽な出来事を思い出して、複雑な心境のまま彼女の頭を撫でたのだった。
(早いトコ犯人を見つけないと、姉ちゃんにまた投げ飛ばされちまう。
またあれを喰らわされたらたまんねえしなぁ……)
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