第10話


・・・・・え?

寄付金が、減っている??



 子供達にすっかり打ち解けた明が子供達に勉強を教えているその脇で、俺は施設長の垣見さんとお茶を飲みながら話をしていた。


 その中で、ねえちゃんに相談したいことがあるから・・・と話を切り出され今に至る。



「そうなの…せっかく美和さんからお預かりしていたのに……なんとお詫びしたらよいやら」


「いや、まあ…お金自体はもう、ここの施設にお渡ししたものだからどう使っても文句は言われないと思いますけど…使用不明で、お金が無くなるってのは穏やかじゃないですね……」


 子供達のために寄付をしているねえちゃんが聞いたらどう思うか…それが気になるところではあるけども……

一介のただの高校生である俺が簡単に解決できる問題でもないのは確かなわけで……。



「初めは計算を間違えたのかしら?っていう金額でしたし、あまり気にしていなかったんだけどねぇ……流石に今回の金額は大きくて、このまま隠しておくわけにも行かなくて……」


困ったわね、という感じで頬に手を当てながらそう呟くように話す垣見さんに、俺は軽い気持ちで聞いてみた。



「……で、いくら無くなっちゃったんですか?必要なら姉貴に言ってみますけど?」


「無くなったのは……」


垣見さんは、指を三本俺の前に指し示した。




「3万?」


垣見さんが首を横に振る。


・・・え?も、もっと?!

じゃあ・・・さんじゅうまん?!


さすがにそりゃあ……無かった事には出来ないわな。



「今までは…多くても1万位だったから…見ないふりをしてきましたけど、後もまとまったお金が消えてしまったとあっては、美和さんに申し訳が立たなくってねぇ…」


「…警察には?」

「まだ、届けは出していません。犯人は判んないけれど、施設内の人の仕業なら…万が一子供達の中の誰かだとしたらって考えると、なるべく事を荒らげたくは無いの……」


……そりゃ、確かにそうだろけど……金額が金額だからなぁ……。



「だから貴方に相談してみたの。施設の職員が犯人だとしても、子供達の中の誰かだとしても、出来るだけその人を傷つけたくはないんです。

元々頂いたものだから、本当は無いものが減ってしまっただけ…それだけの事なんですから」


……そりゃあ、まあ、そうだろうけど……人が良すぎますよ、垣見さん。

 長年子供達の面倒を見て、施設の運営に頭を悩ませてきた彼女の顔や手は…彼女自身の実年齢よりも老けて見せてしまうほどの苦労が刻まれている……。


その気持は無下には出来ないよなぁ〜……。



 このまま姉ちゃんにその事を話せば事件は簡単に解決するかもしれないが、美和パワーに任せて力押しで解決なんてしたら、垣見さんの願いとは間逆な方向へ向かうことは目に見えていた。



・・・かといって、俺がそう簡単にどうこう出来るような話じゃない気がするんだけども……。

 じっとこちらを見つめる垣見さん。

その顔は…ただの高校生に相談するしか無いんだと…他には頼る相手はいないのだと…そう語っているようだった。


 

こ、困ったなぁ……。




「お金自体のこと…足りなくなったお金の補填は姉ちゃんに…ここが困っているみたいだって話せばほいほいと出してくれるでしょうから心配は要らないと思いますが、犯人が判らないと…結局、また、取られてしまう可能性がある訳で……

まずはその犯人の特定をしてみまるしかないですね……

 俺は何処かの高校生探偵じゃあないですし、じいちゃんが名探偵だったからその名にかけて推理することも、真実はいつも何個とか言って決めゼリフを言う事も出来はしませんが」


「……ねえ瞳ちゃん?さっきから難しい顔して何のお話しているの?」


 子供達に一通りの勉強を教え終わったらしい明が俺の隣の椅子に座って興味津々に聞いてきた。



……俺の頭脳…って訳ではないが、少なくとも俺より頭の回る彼女なら、何か良いヒントをくれるかもしれない。



「子供達には話すなよ?

実は、とある事が施設内で起きていて…できるだけ穏便に、そいつを片付けたいんだ。

そのために。その事を起こした犯人を突き止めて、できるだけ穏便、かつ平和的に叱るとか注意するかして解決がしたい。

なんかいい方法は無ぇかなぁ?」



「…え?なになに??探偵ごっこ?ちょっと面白そうじゃん?」


 瞳をキラキラ輝かせて、明が前のめりに食いついてきた。

が、声が少しばかり大きい。


 

「わ?!バカ!声がでかいっ!」


「え〜?なになに?たんていごっこ?わたしもやりたい〜」

「たんていさん?おねにいちゃん、たんていさんやるのお?」

「おねにいは今は女の子だから、杏姉ちゃん役じゃん?

じゃあ、江南役は誰がやるんだ?」


 案の定というか……当然の結果というか……。

国民的アニメと言われるまでに人気になったおなじみの某探偵アニメは、ここの施設の子供達の間でも大人気なのであった。


…のはいいけど。


『名探偵江南』ごっこが出来るという勘違いが子供達の間に広がってしまって、このままでは収集がつかない。



「どーすんだよ、これ?これじゃ目的の事をする訳にはいかねえぞ?!」

「……じゃあ、瞳ちゃんのポケットマネーで毛利■偵事務所に相談してみる?」

「コラコラ。伏せ字を使う部分が間違ってるぞ?…じゃなくてっ!」


「…んじゃぁ……メネシ▲探偵事務所とか……?」

「そーじゃなくて。

そもそも探偵なんか雇えるような小遣いなんざもらってねえし、第一そんな事したら事が公になるから駄目だろ?!」


 詳しく真相を話さなかったから事の重大さを知らない明のリアクションは仕方がないんだが……。



「でもさ、コレって……

子供達から色んな話が聞けるチャンスなんじゃない?」


 開き直った明が、子供達に引っ張られたり抱きつかれたりしながら苦笑いしてそんな事を言った。


…た、たしかにここは、一旦子供達の相手をそつなくこなしながら子供達から情報を手に入れるしか無いか……。

何も分からなければ、何も初められないし、な。


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