第3話 え〜っと…これは一体どういうこと?!




 ・・・翌朝。




 目黒家の朝は早い。



 朝は5時といえば姉さんと親父がすでに起きて朝練をしている頃だ。



俺はいつもどおり、5時半に起きる。


 日課である家族のための朝食作りをするため、自分の弁当と、今日は家にいる予定の家族二人分の昼食の準備を手早く済ませなければならないからだ。



(……なんか…体がだるいのに、妙に軽いって…変な感じがするなぁ……)


 寝起きでベッドに腰掛け、シャッキリしない頭をポリポリ掻いて大あくびをした時は、ちょっとばかり寝相が悪かったために体を冷やしてしまい、体が怠くなっているのだとばかり思っていた。


 いつも通り歯を磨くために洗面所へ行き、じゃーっと蛇口からコップに水を注ぎ、健康状態を確かめるように鏡の中の自分を見る。



……うん。


体が怠い割には、顔色は悪くない。


少々寝起きで顔が腫れぽったいようだけど、そんなのは別にどうということもない。


なんか…寝癖がすごいな……


 髪の毛がこんなに長くなって、あっちこっちに跳ねている。


(うはぁ…めんどくせえ…こりゃ、しっかりブラッシングしないと直んねえな………)



 頭をポリポリと掻きながら、口をすすぐためにコップを口に運び・・・・・



ごっくん!


思わず含んだ水を思いっきり飲み干してしまった。





・・・髪が、長い?!



思わず目の前の鏡にへばりつき、まじまじと自分を見る。


……そこには、昨日までの自分とは違う自分の姿があって。



「……な、なんじゃ、こりゃ?!」


 自分の髪は、つい先日床屋に行ったばかりで…いや、そもそも自分でここまで伸ばそうなんて、考えたことはない。

ただでさえ女性と間違われやすい自分にそんなオプションを付与する必要がないからだ。



(親父…またいたずらしやがったか?!)


…以前、何度かエイプリルフールとか、誕生日の朝にウイッグを寝ている間に取り付けられてからかわれた事がある俺は、今回もなにかのドッキリサプライズだと思って…長い髪を思いっきり引っ張った。



「いっ…痛ってえぇ……え?!なに?ヅラじゃねえのか、これ?!」


 何本か抜けてしまった髪を見て、それが明らかに時分の頭部から “抜けた” ものだと確信した俺は……



(こんな…急激に髪が伸びる育毛剤があるなんてな…さてはあんにゃろ、俺を実験台にしやがったな……)


 昨夜使ったシャンプーかリンスにそういったモノを混ぜた可能性は非常に高い。


…そう。うちの親父殿は何かにつけて俺で色々試す悪い癖があった。

…ま、姉ちゃんも俺で色々技を試す悪い癖があるが……


・・・うちの家族は、まあ、そんな感じで俺をお試し材料として扱うことが多く、そして俺もご多分に漏れず、料理の初味付けなどを家族で試す………。


 まあ、似た者同士がここに住んでいるっていうか、血は争えないっていうか…(汗)



おっと…んなことしてる場合じゃねえ。

朝は時間が惜しい。


 文句は朝食の時にたっぷり言ってやると心に決めた俺は、トイレへ向かい、そして。


 用をたすためにいつもと同じ動作を、便器の前で行ったところで、今回のことがただ事ではないことに…ようやく気がついた。




「¥$@%#〒〆@¥¢£∑∂∅∉β〜〜〜?!」




 個室で、思わず声にならない声を上げ、絶叫する。


するだろ?!普通。




・・・無い。


そして、違うものが、ある。





 トイレにしゃがむまで気が付かなかったが、胸元に2つばかり……たわわに膨らむ豊かな胸が……何故か、有る。




・・・・・落ち着け。

落ち着け、自分っ!


冷静になって、考えるんだ…

今の、自分の置かれたこの状況を。


 もはや、誰かのイタズラとか、そんなレベルの話じゃあ、無い。




そうだ…


真実は、いつも、ひとつ!



誰かがいつも決め言葉でそう言っているだろう?



「…よく考えてみたら…そんなに大したことじゃないじゃん。人間辞めさせられた訳じゃあないんだし。

うん、たいしたことじゃあ、ない」



ま、事実、用を足す事に若干の違和感は存在したが、苦労することもなく……。



 

俺はいつも通り家事に手を付けた。




 ☆☆ ★★ ☆☆ ★★ ☆☆ ★★





「・・・・・は?!」


 食卓に着いた親父殿が、俺を目の前にしてただでさえ小さな目を無理やり大きく見開いて、まじまじと俺を見た。



「何だ?!何の冗談だ、それは。

ハロウィンはとうの昔に終わっているし、朝からコスプレなんかしてないで早くその色んなものを外して、学校に行けるように準備しなさい」

「……だよな〜…やっぱり、あんたはそういう反応、するよな〜?」

 

 味噌汁をよそってテーブルに置いた俺は、苦笑いしながら頷いた。



「俺が今までにそういうイベントなんかに興味を持ったことがあるか?そんくらい分るだろ?」


「んじゃあ、やっぱりそれ、本物か?いや、だが、しかし……」


 確かめようと伸ばしてきた手をぺしん!と払い落とし、俺はダメ押しで話を続ける。



「本来あるものが無くなってるし、無いもんが増えてる。間違いなくコレは事実だ、受け入れてくれ」


・・・だいたい、何で俺が親父を宥めなきゃならんのだ?一番驚いてるのは俺自身だからな?



「瞳ぃ〜〜♡」


ひしっ!むぎゅっ!!


「わあ?!ほ、ほんとに女の子になっちゃってるうぅ?!やわらかあぁい☆かわいいっ☆」


 姉ちゃんはこの状況を受け入れるどころか、飛び越えて喜びまくっていた。



「あああぁ…まさか、こんな日が来るなんて…姉ちゃん、長生きして、よかったわぁぁ〜」


 もう一回しっかり熱い抱擁をした後、涙目で俺をまじまじと見つめながらそんな事を宣う始末で。



「私、本当はず〜っと妹が欲しかったのよ〜〜♡

奈月には悪いけど、本当の姉妹が一番よね〜」


 奈月とは…姉ちゃんの友達で…剣道家の娘で……他にも恋人のカテゴリーに入るらしい女性でもあり……。


ここにも複雑な人間模様が展開されている。



「…実の弟捕まえて、言うのはそれかい?!それじゃ、まるで以前の俺は要らないみてえな言い方だな、おい」

「みたいじゃなくて、要らないの。男なんて、汚らわしい生き物…アウトオブ眼中だわ」


むぎゅ、むぎゅっ!と抱きついて離れない馬鹿な姉を強引に引っ剥がし、俺は深い溜め息をついた。

 


「実の息子が、弟が大変な事になってんだぜ?心配するとか、不安になるとか、他になんかリアクション、有るだろ??」


 そう言うと、何処かズレている親父殿と世界最強の格闘娘はお互い顔を見合わせてから、声を揃えてこう言った。




「「・・・別に?人間辞めたわけじゃ無いんだから気にしなくて良いんじゃない?」」





・・・・・さすが、血の繋がった家族だ。



考えることは、俺と全くおんなじかい!!(汗)

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