第4話


・・・正直、今日のところは学校を休みたい気分だったんだけど。

(……この状況を、質問してくる連中相手にひたすら繰り返さなきゃならない事を考えると面倒くさいじゃん?)

 律儀と言うか、習慣化しているのか…明が今日も元気に俺を迎えにやってくる。


 そして、家族以外で初の変身した俺を見た人間となる彼女の反応は……。



「・・・ねえ?瞳ちゃん?なんか・・・縮んで、ない?」


 姉ちゃんはコレを着て行けと…自分が高校生の時に着ていた制服を出してきたが、それは丁寧に断った。

いくらなんでも、流石にスカートを履く気にはなれないって(汗)

・・・というか、親父殿も姉ちゃんも、このまま俺を学校に行かせる事には抵抗は無いのだろうか?


・・・そんな訳でいつも通りの制服に袖を通し、長くて余る袖とズボンの裾を捲り上げて調節し、渋々アキラの前に立ったんだけども……。



「そ、そうか?気のせいじゃないか?」


「う〜ん…何だろう?何か、いつもと違う気がするんだけど……」


・・・いや、他にもっと、判りやすい間違い探しの答えはあるだろう?



「・・・ああ!髪の毛、伸びたねぇ…また、お父さんが何かイタズラしたの?」


 いや、まあ、確かにそれも正解ではあるけれども・・・

もっと判りやすいのが、目の前にあるだろう?


 ……つーか、親父のイタズラはそういう頻度で行われ、俺が被害を受けているという証拠のリアクションがこれなのかもしれないが……。



「そうじゃなくて、コレ見ろよ?こんなもん、昨日までの俺にあったか?」


 自分の胸元の2つの塊を揺らしてみせた途端、ようやくここで俺が欲しかったリアクションが帰ってきた。



「えええぇ〜〜〜っ?!瞳ちゃん、その胸っ?!」


「・・・ったく…気付くのが遅えよ。こんなもんが目の前にぶら下がっているのになぜすぐに気が付かん?」

「ハロウィンは、とっくの昔に終わっているのに何で今になって仮装してるのっ?!」



 俺の立っている場所だけ重力が一気に十倍になったかのように俺は地面にズッコケた。

……それは、俺の、今、一番要らないリアクションだよ……(泣)





「・・・・・わぁ……凄い…本物だ、コレ……」


 ひともみふたもみ俺の胸を揉んでみたところでようやく事態を把握した明は、ここでようやく驚いてくれた。



「…しかもっ!私のよか大きいって、どういうことよっ?!」


「・・・そっちか?驚くところはそっちなのか?!」


「神様の意地悪っ!!なあんで私の胸はちっちゃいままなのに、瞳ちゃんみたいなぽっと出の、本日女の子デビューしたばかりの子にこんな宝物をプレゼントするかなあっ?!」



・・・・・をぃ。


明パイセン?

問題がやっぱりズレてんぞ?(汗)



……それに、こんなモノ……



「胸が大きいのがそんなにいいのか?こんなもん重くて邪魔だし、肩凝りそうなんだけど・・・」

「…何贅沢言っちゃってんのよっ!!何、それは私に対する当てつけっ?!」


 胸ぐらをがしっと掴んで明がすごい形相で俺を睨む。

いや、なんか違う……。

なぜ、そこでやっかみが入る??



「朝起きたら自分の胸が大きくなってんだぞ?いきなりそんなプレゼントなんて明だってこま………」

「ああっ…なんて、ありがたい……」


天を仰ぎながら両手を組んだ明は見えない神様にお願い事をしているようだった。


・・・・・お願いごとなら……。

昨日の流星群にそれを願えばよかったのにな?



「明ぁ…そんな神様にお願いするくらいなら、昨日の夜流れ星に願い事すればよかったじゃん?もしかしたら・・・あれ?」


……お願いごと?

ちょっと、マテ。




・・・


・・・・


・・・・・願い事?流星群??





まさか……そんな、バカな?!


これ…俺の女体化って……

それが、原因じゃねえだろうな?!



「あら?お願い事なら、私もしたわよ?瞳ちゃんが帰ってからすぐ、私も星空見に外に出たし」


・・・で、それが叶っていない?


 明の胸は変わらずにそのまんま……

つまり、この変身は星に願い事をしたからじゃ無いって…ことになる……のか?



「なんだ、残念だな。

星の願力じゃ明の胸は大きくならなかったって事・・・」

「瞳ちゃんが女の子になれば面白いのにって、お願いしたから……。

こんな事なら、ちゃんと胸が大きくなるようにお願いすればよかったなぁ……」




・・・・・なぬ?



「いっ…いま、なんていったあきら?」


「嫌だ…女の子に何度も言わせないでよそんな事…胸が大きくなるよ・・・」

「それじゃねえ!その前っ!

お前、俺が女の子になるように願い事したってのは、ほんとうか???」


 今度は俺が明の胸元を掴んで顔を近づけて迫る番だ。



「うっ…うん……冗談半分で、つい・・・」


 なんか、胸のことを何度も言ったから顔を赤くしたのか…もじょもじょと呟くようにそう話す明に俺はちょっと戸惑ったけど。

…今は、それどころじゃない。



おいおいおいおい!!



 こりゃあ、本当に星に願いが届いたみてえじゃねえじゃよっ!



 漫画みたいな……

そんなファンタジックなミラクル、俺は要らねぞ?!



「まさかぁ…本当にお星さまが願い事を聞き届けてくれちゃった、の?」


俺の顔を見て、事の重大さに気がついてくれたのか…明が俺の顔をさらに覗き込みながら話しかけてきた。



「だってさ…身体が女性に返信するクスリなんて無いだろうし、あってもうちの親父がそんなモノ手に入れられる訳無いし……今考えられるとしたら、それしかねえんだよ・・・」


「お姉さんなら……」


明は俺に合わせて考えてくれたのか…一つの仮説を提示してきた。



「一応世界中を飛び回る超有名人の瞳ちゃんのお姉さん…美和さんなら、そういう薬、手に入れられるかも…?」


・・・う〜ん……可能性は、無くはないが……



「いや、多分姉ちゃんなら、そんな薬を手に入れた途端、速攻で俺のところに走ってきて、有無を言わさず飲ませるだろうな……寝ている間に飲ませるなんていう手間はかけない……はず」



 何しろ自分に1番正直な性格の我が家系の中で、ダントツに面倒くさいのが嫌いな人だからな……。

さっきだってこっちが断る前にスカートを履かせようと無理やりズボンを脱がせようとしたくらいだし(大汗)



「とりあえずさぁ……今はそんな事考えてもなんにも解決しないし……このままだと遅刻するよ?」


げ!そりゃまずい。


「しっかし…この髪……邪魔だなあ……」


 走るだけじゃなく、歩いていても風に流された髪の毛が顔にかかってうっとおしい事この上無かった。



「…あ、じゃあ、私のコレ、貸してあげる。ちょっと後ろ向いて?」



そう言うと、彼女は自分のカバンの中から青色のリボンを取り出して、俺の髪の毛を耳元辺りから両手で梳きあげて頭の後ろあたりで止めると、器用にリボンで縛り上げてくれた。



「あら、似合ってるよ?可愛い♡」


コンパクトな手鏡を俺の方へ向けて、明がニッコリと笑いながらそう言った。





・・・・・ぽ…ポニーテール……。



よもや、自分がこれをする事になるとは……


 動きやすいし、首元も涼しくなったし…

俺が女の子の髪型で結構好きなやつなんだよね、コレ。

なかなか快適でいい感じなんだけど……



・・・なんか、やっぱり複雑な気分だ。


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