第二十一話 伊織の運命の相手


 ある授業にて。


「じゃあ適当に五人班作って、各々調べてくれ~」


 投げやりな女教師にそう言われ、ガヤガヤと騒ぎながらグループを組んだ。


 グループ活動は普段の語られるだけの授業よりはずっとマシなので、少し喜びを感じていたのも束の間。


「じゃあ私ライターやるねー」


「私はファシリテーターをやるわ! みんな調べなさい!」


「……ギロリ」


「さっ、頑張って調べるかっ」


 ……登場人物、全員集合。


 俺はキャラの濃すぎる軍団を、誕生日席に座って見ていた。


 あと、相変わらず俺を睨むのやめようか、水野?


「透、サボらないで調べなさい!」


「あ、悪い」


「まぁ私も手伝うから、一緒に……ね?」


 早坂が俺の机に身を寄せてくる。


 ふんわりと漂う、柑橘系のいい匂い。


「おい早坂、距離が近いぞ」


「あっごめんね透くんっ」


「友梨今はなしよ!」


「あははっ、わかってるよ美乃梨」


「モテモテだね、透?」


「うるさい伊織黙れうるさい」


「俺にだけ強いなぁ」


 なんて平然と会話しているが、さっき早坂が急接近してきたせいで水野から「お前たやすく友梨に近づいてんじゃねぇ殺〇ぞ」と言わんばかりの視線を向けられている。


 俺が近づいてるわけじゃないのに。理不尽だ。


「ん? どうしたの愛莉?」


「なんでもないよ友梨! さっ、調べよう!」


「そうだね」


 とんでもない化けの皮を被った女だ。


 はぁ、とため息をついてスマホで検索をかけていく。


 すると、さっきからラブコメの主人公の友人キャラに徹していた伊織がちょいちょいと俺に手招きをしてきた。


 正直拒みたかったが、しつこかったので応じる。


 伊織が俺の耳元で、三人には聞こえない声量で囁く。


「なぁ伊織」


「なんだよ」


「……水野さん、運命の人かもしれない」


「…………は?」


 何言ってんだこいつ。


 さっきの化けの皮をしっかり見たはずだろ。


「いやなんかさ、あの透に対する鋭い視線と、時折俺に向けてくる蔑みの視線がさ、なんか、こう……いいんだよ」


「……やば」


「リアルトーンで言うのやめてくれる?」


 昔から運命の人を探し続けて女の子を漁りまくったこいつのことだ。どこか性癖が曲がっていそうだとは思っていた。


 しっかしまぁ、まさかドMだとは思っていなかったが。


「この胸の高鳴り、早まる脈。間違いない、俺は水野さんに……運命を感じてる!」


「感じてるのは恐怖だろ」


「恐怖と恋は紙一重なのさ」


「何にも名言じゃないからな?」


「とりあえず俺、今からアタックしてみる」


「…………お好きにどうぞ」


 キチガイを野に放つ。


 ドMが見据えるのは、退屈そうにスマホをいじっている(絶対に調べてない)水野。


 水野が視線に気づくと、露骨に嫌な顔をした。


「……何」


「いやべっつに」


「じゃあ見ないで変態」


「……いやだ」


「ぺっ」


 今唾吐いたよな? そんですっげぇ気持ち悪そうな顔したよな?


 伊織の方を見ると……うっわぁすげぇ笑顔。


 もはや嫌われてるのに気づいてるとか、そういう問題じゃない。


「あんたに見られると妊娠させられそうだから見ないで。女ったらし」


「ははっ、そうかそうか」


「……気持ち悪い」


 これに関しては水野に賛成だ。


 しかし、めげない伊織。


「……これだから男は」


 水野がそう吐き捨てて、早坂に話しかけた。


 水野の敗北である。


 根性で勝利を勝ち取った伊織はと言うと……・


「な、運命だろ?」


 どうやらこいつの運命は、かなり障害が多い前途多難なものになりそうだ。


 ……とりあえず、友達をやめようか少し悩みました。

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