第二十話 ずるい!
おしゃれなジャズが店内に流れる。
木を基調とした、いかにも女子高校生が好きそうなカフェにて、広瀬と向かうような形で座っていた。
「……やっぱりちょっとじゃねぇじゃんか」
「ちょっとよ? 私にとっては、だけどね」
ふふん、と勝ち誇ったように俺を一瞥する。
グヌヌ、と敗者らしく睨んでみるが、テンションの上がり切った広瀬には無意味なようで、鋼の装甲に跳ね返された。
「でも、コーヒーだけでよかったのかしら? せっかくパンケーキとか、色々あるのに」
「金がねぇんだよ」
「これくらい、私が奢ってあげるわよ? あまりお金は使わないし」
「じゃあお言葉に甘えて……と言いたいところだけど、遠慮しとく」
どこに女子に奢られる男子が存在するのだろうか。
そんな、バレたら恥ずかしい男の意地を誤魔化すように、お冷を口に含む。
すると広瀬がいかにも「はは~ん?」と言いたげな表情で、頬杖をつく。
「……透って変なところで体裁、気にするわよね?」
「…………うっせ」
幼馴染には俺の薄っぺらい本心など筒抜けなようだ。
……グヌヌ。
数分広瀬にからかわれていると、頼んだものが届いた。
「わぁ~! すっごく美味しそうだわ!」
パシャパシャと興奮した様子でシャッターを切る。
案外こいつも、年相応なところあるんだな。
「そりゃ、よかったな」
「ふふっ、ミンスタに投稿するわ!」
「おう」
子供のようにはしゃぐ広瀬を横目に、コーヒーをずずっとすする。
「さっ、どこから食べようかしら~!」
どこから食べても同じだろ、という野暮なことは胸の奥にしまい込んで。
さながら保護者のような目線で、美味しそうにパンケーキを頬張る広瀬を見ていた。
なんだか胸がぽっと温かくなった気がした。
「うぅ~最近すっかり寒いわねぇ~」
「だな」
ここ最近になって急に夜が冷え込んできて、冬の到来を感じながら帰宅する。
日が落ちるのも早くなったため、町一体は真っ暗になっていたが、家には灯りが灯っていた。
リビングに入ると、案の定早坂がちょこんとソファーに座っていた。
「ただいま、早坂。早かったんだな」
「…………」
返答はない。
ただぷるぷると肩を震わせていて、見るからに怒っている。
ゆっくりと頬をぷくーっと膨らませた顔をこちらの方に向け、薄っすらと目尻に涙を浮かべた早坂が、俺の眼前にスマホの画面を突き出してきた。
「二人でカフェ、行ってたんだ」
「ギクッ」
「……ずるいよ! わ、私だって行きたかったのに……!」
なんでバレてるんだ?
別にグループにメッセージを送ったわけじゃないのに。
早坂が突き出してくるスマホの画面を見てみる。
すると、パンケーキと少し俺が映った、いわゆる『匂わせ』の投稿がされていた。
「(こいつやりやがったな……!)」
「むぅ~!!!!! ずるい!! 私も甘いもの食べたいっ!」
ギロッと早坂が広瀬の方を向く。
「ひゅーひゅー」
出直してこい!
「しかも……二人でッ!!!」
「お、落ち着け広瀬?」
「やだやだやだやだやだやだ!」
「退行してる⁈」
ぽこぽこと俺の胸を叩いてくる。
早坂が非力なおかげか、全然痛くないが。
「むぅ~透くんのばかぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!」
割としっかり者の早坂がこんなに取り乱すとは……。
これは相当羨ましかったに違いない。
……まぁ実は、ある程度この状況を予測していたのだが。
「は、早坂」
「……ん?」
「…………これ、食う?」
差し出したのは、白い箱。
なにこれ、と呟きながら早坂が箱を開ける。
そこにはあのカフェで買ったチョコレートケーキが入っていた。
「こ、これ……」
「まぁ、なんだ? 俺たちだけってのも悪いなと思って、買ったんだ」
「…………ありがと」
小さくそう呟くと、白い箱を大事そうに抱えて笑みをこぼす早坂。
そんな早坂の様子に安堵して、胸をそっと撫でおろした。
「ほんとありがと、透くんっ!」
「気にすんな」
まぁ喜んでもらえて何よりだ。
早坂の姿を温かい目で見守っていると、後ろで広瀬がボソッと呟く。
「……お金ないって、言ってたくせに」
口を尖らせて言う広瀬だったが、今度は難聴系主人公でいておく。
「まっ、そういうところが好きだけど(ボソッ)」
リビングがほころんだ雰囲気になる。
俺はそんなある意味いつもの温度に心地よさを感じつつ、沈むようにソファに腰掛けた。
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