第十三話 両腕に豊満なソレ

 鞄を肩にかけて校門を抜けようとすると、見知った二人の美少女の姿が目に入った。


 もはや誰か、なんて言う必要もない。奴らだ。


「あっ透来たわね」


「ほんとだ」


 俺の目の前ではガミガミ言い合っている二人だが、どうやら仲良く俺のことを待っていたらしい。


 別に一緒に帰る予定もないのだが。


「遅いわよ透! 待ちくたびれたじゃない!」


「一緒に帰る約束そもそもしてないだろ」


「約束なんて、わざわざする必要ある?」


「斬新な価値観をジャパンに持ち込まないでいただきたい」


「むぅ~……まっ、別にいいでしょ!」


 ふんっ! と胸の前で腕を組み、ふんぞり返る広瀬。


 何を言っても仕方がないので、言葉は返さない。


「随分長かったけど、愛莉と何かあったの?」


 早坂が少し心配そうにそう聞く。


 何かあった、と言われれば、何かありすぎた。


 しかし、どれもぶっ飛びすぎていて早坂には理解不能だろうし、これを愚痴ったら水野に殺されそうなので、


「いや、別に」


「……そ、そっか。ならよかった!」


「あぁ」


「じゃあ一緒に帰ろっ!」


「…………わかったよ」


 ここで断っても、帰る場所は同じなので変わらないだろう。


 それに、もうここまで来たら周りの目を気にしても仕方がないか。


 俺は諦めたようにため息をついて、二人と並んで歩き始めた。


 俺の右側に広瀬。左側に早坂がいて、その間に挟まれるような形になっている。


 ……なんだかハーレム主人公みたいだ。


 そう思った矢先、広瀬が俺の右腕にしがみついた。


「とーるっ♡」


「⁈」


 ぐにゅ、と形のいい胸が俺の腕に押し付けられる。


 未知の感覚に襲われた。


「な、何やってるんだよ広瀬!」


「はぐれちゃダメよね?」


「人通りの少ないこの道でどうやってはぐれるんだよ」


「……私ははぐれるわ。方向音痴だもの」


「森で迷った時に生還したお前がなにを」


「方向音痴、だから」


「あっはい」


 とんでもない威圧感を放った広瀬に、小型犬と同じレベルの俺はひるむことしかできない。


 すると今度は早坂が「むぅ~~~」と拗ねたように頬を膨らませた。


「……えいっ♡」


「ウハッ⁈」


 広瀬と同じように、早坂も胸を押し付けてきた。


 だが、広瀬とは明らかにレベルの違うボリュームに、頭が支配される。


 なんだこの世界は……!


「お、おい早坂?」


「……私も方向音痴だから」


「え、えぇ……」


 それ以上は何も言うな、と目で訴えかけてくる。


 しまいにはさらに強く俺の腕を抱くもんだから、想像を絶するほどの乳圧だった。


「……あ、あの、お二人さん? そろそろ離してくれませんか?」


 すると二人は口を揃えて、



「「イヤ」」



 断固として離さぬ意思を示し、より強くしがみついた。


 ここで無理やりにでも腕を動かせば、きっとあそこに触れてしまうだろう。


 そんなことになれば、セクハラで訴えられかねない。


 ……そもそも、俺がセクハラされている気がするのだが。


 俺はまたしても困ったようにため息を零して、そのままの状態で帰宅した。


 帰宅後しばらくは、両腕に残る感触を忘れることができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る