第十二話 強烈なガーディアン


 連れていかれたのは、なんとも雰囲気のある、じめじめとした体育館裏。


 加えて誰も来ないような場所で立ち止まったロリ少女――水野愛莉(みずのあいり)は、踵を返して仁王立ちした。


 ライムグリーンのツインテールが揺れる。


 そんな水野の浮かべる表情は、かなり威圧的だ。


「松下。なんでここに呼び出されたのか、分かる?」


「……わからん」


「はぁ。自覚ないとか終わってる」


「は、はぁ」


「……はぁ」


 深い溜息をつくと、俺の方に人差し指をぴしりとと向け、


「松下、単刀直入に言う」


 と言い、鋭い視線を俺に向けた。



「友梨に近づくのはやめなさいっ!!!!」



 ……なるほど。


 水野の発言で、何故早坂と話すたびに睨まれていたのかが分かった。


 水野は――早坂に過保護なんだ。


「別に、近づいてないけど」


「嘘を言うな! 友梨みたいな天使が、汚らわしい男と関わるわけがない! どうせ脅迫でもして無理やり……!」


「そんなことしてない」


「しらばっくれるとは……やっぱり男はクズだ」


 おえっ、と大げさにやってみせる水野。


 どんだけこいつ男嫌いなんだよ。


「本当に、自発的に早坂に近づいてるわけじゃないんだよ」


「じゃあ松下は、友梨が自ら松下のようなクズに近づいている、と?」


「まぁ、そうだけど」


 ってかクズじゃねぇよ。


「はっ。じゃあ聞くけど、松下に友梨に好意を持たれるほど魅力があるとでも?」


「いや、ない」


「じゃあ脅迫で確定だ! この犯罪者め! 全世界の女性の敵だ!」


「違うから! とんでもない偏見が含まれてるから!」


 でも、水野が学校中にそう言いふらせば、そうなってしまいそうだ。


 陽キャとは末恐ろしい。


 はっきり言って、水野は男にとってテロリスト過ぎる。


「……はぁ。あんなに可愛い友梨が松下と話していると、可哀そうで胸が痛い」


「だから、俺から話しかけてるわけじゃないんだって」


「うるさい! 松下に発言権はない!」


「じゃあなんで連れ出されたんだよ」


「この先一生友梨と関わることができないように、罵詈雑言を一方的に浴びせるため」


「お前の方がやべぇよ」


 しかし、水野に罪の自覚はない。


 この早坂に過保護すぎるガーディアンは、本当に俺を含めた男を早坂に近づけようとしない。


 ……こればっかりは俺から話しかけているわけでもないし、そもそも同棲している時点で免れないんだよなぁ。


「とにかく、友梨に近づくな、話すな、同じ空気を吸うな」


「それは死ねって言ってるようなもんだぞ」


「じゃあ死ね」


「こいつやべぇな」


 男嫌いにもほどがある。


「松下、約束は守りなさい」


 大方満足したのか、俺のことを一瞥して、ふんっ! その場から立ち去った。


「……ほんと、なんなんだよ」


 変な奴に目をつけられてしまったようだ。


 だがまぁ、別に武力行使に出る様子はないので、特に気にすることもなく帰ることにした。

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