第十一話 鋭い矢


 今回もまた昼休みのチャイムに救われ。


 いつもはウンザリする午後の授業に幸福を感じていた。


 だが、授業中でもクラスメイト達からはチラチラと視線を向けられ、「芸能人っていつもこんなんなのか」と呑気なことを思っていた。


 そして放課後。



「ねぇ透、私と一緒に帰りましょ!」


「ねぇ透くんっ! 私と一緒に帰ろ!」



 お騒がせの美少女二人に詰め寄られていた。


 どうしたものかと首を傾げていると、遠巻きに俺のことを見ている伊織の姿が目に入る。


 ニヤニヤと楽しそうな表情を浮かべる伊織を利用するか。


「ごめん。今日は伊織と予定があるんだ」


「「えぇ⁈」」


「な、そうだろ?」


 伊織に視線を向ける。


「(おい助けろ。これは俺の手に負えない)」


「(……フッ、任せろ)」


 流石腐れ縁。


 ありがとう、と視線で送ろうと思ったその時。


 伊織は白く輝いた歯をにっと見せて、


「おぉっといけない、今日は真弓ちゃんとデートの予定があったんだった。急がないと~(棒)」


 クソ野郎ッ!


 大根役者にもほどがある。


 それを聞いた二人(アホ)は目をキラキラと輝かせてさらに距離を詰めてきた。


「どうやら透はぼっちみたいね! なら私が一緒にいてあげるわ!」


「ぼっち言うな」


「透くん、私はそ、そ、傍にいるから……ね?」


「その発言危ないからやめろ」


 早坂の一言で俺の命が揺らぐので、そこんところしっかり注意していただきたい。


「ねぇ透、私と放課後デートしない?」


 妙に艶っぽい広瀬。


「しないし。今日は本屋に行くんだよ」


「じゃ、じゃあ私も行くわ!」


「一人で行かせろよ!」


「……もしかして、えっちな本を買おうとしてたのかしら?」


「違うわ!」


 そう否定する横で、早坂が「え、えっちな……」と妄想を膨らませている。


 そしてドキマギと視線を泳がせて、


「私は透くんがえ、えっちな本を買うとしても、誰にも言わないよ?」


「そういうことじゃない。ってか、そもそもえっちな本は買わない」


 第一、もし俺が買うとしたら早坂にバレてるじゃねぇか。一人も二人も変わらないわ。


 俺の発言に早坂は何かを察したように、


「…………透くんもお年頃、だもんね」


「早坂はエロ本を見つけた母親属性でも持ってんのか」


 それにしても、この二人を捌ききるには相当労力がかかる。


 息を切らしていると、ここぞとばかりに二人が詰め寄った。



「ねぇ透、どっちと一緒に帰るのかしら⁈」「ねぇ透くん、どっちと一緒に帰るの⁈」



 なぜ俺はいつも、どちらかを必ず選ばなければいけないのだろう……。


 またしても途方に暮れていると、後ろから鋭い声が放たれた。



「――ダメ。これから松下は私と話すことがあるから」



 場を凍り付かせる、ぴしりと放たれた一言。


 声の先を見てみると、そこには一人の少女の姿があった。


 腕を組み、堂々と佇んでいたのは――中学生かと思うほどに小さく童顔で、可愛らしい早坂の親友だった。


「あ、愛莉⁈」


「友梨、ここは任せて」


 何が任せてなんだ?


 しかし、そんなことは聞く暇もなく。


 図体の小さい割に威圧感のある表情を浮かべる少女が、俺のことを睨んだ。


「松下、ちょっと来い」


 俺は何故か、早坂の親友に連れ出されたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


新作短編


「数々の先輩をからかってはオトしてきたと噂の後輩ちゃんにターゲットにされたので、ここは素直に全肯定しようと思います~「先輩もしかして、ドキドキしてます?」「かなりしてるよ」「えぇっ⁈」~」


を投稿しましたので、よろしければそちらもご覧ください(o^―^o)ニコ

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