第七話 物語(修羅場)は、こうして始まった


〈友梨side〉


 ベッドに横たわり、天井を見つめる。


 透くんと、これから同棲生活……。


「って、私勢いで透くんって、し、下の名前で……!」


 枕をギュッと抱きしめて、悶える。


 あぁ~! 体中がこそばゆい!


 それに私、透くんにす、す、好きだって……勢いで……!


「な、何言ってんだろう私っ……!!!」


 思い出すだけで恥ずかしくなる。


 自分ではその場の勢いとかに流されない性格だと思っていたのに、そんなことはなかった。


 いや、もしかしたら、透くんにだけって可能性もある。


「む、むぅ……」


 顔が熱い。


 思い出すのは、透くんのやる気のなさそうなあの顔。


 それに付随して様々な記憶と感情が、呼び起こされる。


 そして、鮮明に湧き上がってくるのは、あの時の記憶――





 私がたまたま訪れたこの町で、迷子になってしまった時。


『どうしたの?』


 覇気のない様子で私の顔を覗き込んできたのは、透くんだった。


『お母さんがぁ……』


『そっか。とりあえず、交番行く?』


『交番の場所、わからない……』


『じゃあ、一緒に行こう』


 そう言って、透くんは私の手を取って歩き始めた。


 交番に着いても、お母さんが来るまで私と一緒にいてくれた。


 私が透くんの手を離さなかったってこともあるけど、それでも嫌な顔一つせずに黙って隣にいてくれた。


 私は幼いながらも、その時に透くんに恋心を抱いた。





 なんて、ありふれた出会いで、恋に落ちてしまった私は。


 これもまた物語にはありふれた、でも奇跡的な再会をこの町で果たして、それも同じ高校で。


 迷子の男の子と一緒に歩いてる姿を見て、透くんだって確信した。


「……でも、透くんは私のこと、気づいてなかったな」


 しょうがない。


 だってきっと透くんにとってはありふれた、色あせる記憶で。


 でも、私にとっては、かけがえのない初恋の出会いで。


「……はぁ、透くん、好き、だな……」


 どうしようもない初恋を抱き続けてしまった私。


 でも、神様が特別なプレゼントをくれて。


 私を透くんの許嫁にしてくれた。


 あのときは、本当に驚いた。


 だけど、困惑以上に、嬉しかった。


 私は、出会いに恵まれている。


 透くんに運命を感じてしまうほどに、恵まれている。


「……だから、絶対に負けない」


 美乃梨という、凄く魅力的な子がライバルだけど。


 私だって、好きな気持ちは、負けていないはずだ。


「…………負けないもん」


 恋とかそういうのは苦手だし、美乃梨ほど積極的になれる自信はないけど。


 でも、私なりに背伸びして、この気持ちを精一杯伝えるんだ。


「頑張れ、私……!」


 自分を鼓舞して、少し強く枕を抱きしめる。


 溢れるこの気持ちを枕におすそ分けして、私はそのまま瞼を閉じた。





    ***





「……ん、ん」


 目が覚める。


 あまりよく寝れなかったからか、頭がボーっとしていた。


 ……それにしても、なんか俺のベッド窮屈な気がする。


 腕を両サイドに伸ばすと、ふにっ、という妙に生々しい感触があった。


 それに微妙に温かいし、よくよく耳をすませば、微かに呼吸音が聞こえる。


 ってか、なんか熱い。


 体を起こして、両手を見る。


 右手には、意外にあどけない姿で寝息を立てている、早坂。


 左手には、「透……」と寝言を呟いている、広瀬。


 そしてこの柔らかい感触は――そう、おっぱい。


「…………」


 ・・・・。





「なんじゃこりゃぁぁああああぁぁぁああああああ!!!!!」





 

 ――かくして、物語はさらなる修羅場へと動き出したのだった。





 ……はぁ、この先どうなるんだよ、これ。


 

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