第六話 各々の夜


 無計画に飛び出してきた広瀬だったが、その日にあらかた話をつけ、何故か俺と早坂の父親も広瀬の引っ越しを承諾。


 二人曰く、


『なんかラブコメっぽくてより面白そうだからアリ』


 とのことである。


 ……当事者の気持ち考えろ。


 おまけに、ちょうど部屋も空いているというご都合展開。


 もはや何も言えまい。


 そして、二日連続のドタバタや、明日学校という事もあって今日は早めに就寝することにした。


 その際、


「私はベッドがないし、しょうがないから透と同じベッドで寝るわね!」


「ぬ、抜け駆けはダメだよ美乃梨! 今日は休戦だから!」


「……しょ、しょうがないわね」


 というわけで、荷解きの間に少し打ち解けた二人により和解。


 俺は脳死の状態で頷き、ベッドに倒れ込んだ。


 そして現在に至る。


「あぁー疲れた」


 身体的にも肉体的にも限界が来ている。


 まるで今までの俺の生活がぬるかったと言わんばかりの展開だ。


「それにしても、この先どうすればいいのやら……」


 早坂の言っていたことによれば、今日(・・)は休戦。つまり、明日からは戦争の火ぶたが切って落とされるってことだ。


 ……一体心臓がいくつあれば足りるのだろうか。


 正直、先が見えない。


「なんで俺が、こんな修羅場に……」


 もはやその問いは、何も考えなくても頭に浮かぶ。

 

 誰か納得のいく理由を、論理的に説明してほしいものだ。


「……とりあえず、寝るか」


 明日のことは、明日の自分に任せる。


 今の俺には、それしかできない。


 だから俺は、諦めたように息を吐いて、瞼をゆっくりと閉じた。





    ****





〈美乃梨side〉


 物のない、殺風景な部屋の天井を見上げる。


 敷布団が微妙に固くて眠れない。私の予定では、夜に緩い格好で透の部屋に押しかけて、「ねぇ私、眠れないの」って甘い声で言おうと思ったのだけど、今日は休戦なので仕方がない。


 それにしても、私のフィアンセにあんなに可愛い許嫁がいたなんて……正直、びっくりしている。


「相当、手ごわそうよね……」


 だけど、私の透への気持ちは、途方もない年月を重ねてより大きく強いものになっているから、友梨に負けるつもりはこれっぽちもない。


 で、でも……。


 ……うぅ、私、透と結婚できるかしら……。


「はっ! だ、ダメよ美乃梨! 弱い気持ちでいてはダメ!」


 そ、そうよ!


 私は透だけを思い続けて、自分でもそれなりにイイ女になったと思っている。


 友梨、も確かにイイ女だけれど、どっちが透に気に入られるかが大事。


 透のことは間違いなく私の方が知っているのだから、私に分があるはずだわ!


「…………それにしても、透かっこよかったぁ……」


 久しぶりに会った、私の好きな人。ううん、愛している人。


 昔よりもずっとかっこよくて、面倒見がよくて、私を受け入れてくれる器量の大きさがあった。


 それに、あの何も考えてなさそうな顔! 


「うへ、うへへへ……」


 つま先から頭のてっぺんまで、全部が全部好きだった。私の好きな透だった。


 確かに、再会は私の望むものじゃなかった。


 この先、友梨という高い壁もある。


 ……だけど、第一に大好きな透に会えたことが、嬉しい。


「……えへへ、透、好きぃ……うへへへへ」


 頬が緩む。


 でも気を引き締めて、初めての天井に誓った。



「絶対透は、私がメロメロにさせるわ!」



 そして透のことを思い浮かべながら、幸せな気持ちを心に一杯に満たして。


 静かに、瞼を閉じた。

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