学園一の美少女が許嫁になった翌日に、疎遠になっていた幼馴染が実は女の子でしかも結婚の約束を幼い頃にしていたことが発覚して修羅場過ぎるんだが

第五話 新しい修羅場

　……ひとまず、冷静になろう。

　現状、何故か俺のことが好きらしい二人に「どちらか選べ！」と言われていた。

　二人とも息を荒げて「私でしょ⁈」と言わんばかりの表情を俺に向けている。

　……俺はこんなにモテるキャラだっただろうか。

　答えは否である。

「その……二人とも、俺のことが好き、なのか？」

　すると二人とも食い気味に、

「「好き！！！！！！」」

　お、おう……。

　広瀬はともかく、まさか早坂が俺のことを……なんてことだ。

　信じられないことだが、直接言われてしまっては信じるしかない。

「ねぇ透、私を選んでくれるわよね？」

　誘うように甘い表情を浮かべる広瀬。

　それに対抗するように、

「と、透くん。私たち、許嫁だよね？」

　照れながらも、俺をじっと見つめてくる。

　……どうしたものか。

　頭がこんがらがるが、ここは真摯に対応すべきだろう。

　つまり、しっかりと本心を伝えることにしよう。

「――二人とも、聞いてくれ」

　重い腰を持ちあげ、立ち上がる俺。

　色々と現実離れしていることが起こりすぎて混乱していたが、俺の根幹は揺らぐはずがない。

　だから堂々と、俺は本心をぶつけた。

「俺は、どっちも選ばない！」

「「えぇ⁈」」

「だって俺は――異性に興味がないからだ！」

「「…………は？」」

　昨日早坂にあんなにドキドキしてたくせに何言ってんだよ、と思われるかもしれない。

　だが、俺は本当に、生まれてこのかた異性を好きになったことがないのだ。

「……ってことは、透くんは……男の子が好きなの？」

「違うわ！」

「じゃあ……不能なの？」

「女の子がそういうこと言うな！」

「……じゃあ、本当に……」

「初恋もまだだ」

「「っ……‼」」

　目を丸くする二人。

　でもしょうがないだろう。

　生まれてこのかた男子校で育ってきて、女子との関わりはなかったし、伊織のせいでいい印象もなかったし。

「だから、どっちを選ぶとか以前に、俺はそもそも、二人のことが好きではないんだ」

「う、嘘……」

「そ、そんなぁ……」

　ガクリと地面に膝をつく。

　心が痛むが、致し方ない。

　これで修羅場は解決――かと思われたが。

「ってことは、どっちが先に透を惚れさせることができるかってことね？」

「…………は？」

「そういうことだね。つまり――スタートラインは、ここから」

「ふふっ、そうね」

　急に二人が意気投合し始める。

　さながら因縁のライバルかのように、火花を散らして。

「負けないわよ、友梨」

「こっちこそ、美乃梨」

　……気づけば下の名前呼び。

　この時、回避されたと思われた修羅場が、この先も続くんだと悟った。

「……で、お前いつ帰るんだよ」

　あの後、広瀬は俺たちが荷解きをしている間も何故かこの家に居座っていた。

　今なんか雑誌見ながらくつろいでるし。

「え？　私、帰らないよ？」

「いや、どういうことだよ」

「私、このまま日本に引っ越す予定だし」

「だったら、自分の家に帰れよ」

「――いや、突然飛び出してきたんだし、家なんて買ってないわよ」

「……はい？」

　ということは、つまり……。

「だから私も、この家に住むわ」

「「は、はぁ～⁈」」

　あまりにも突然すぎる決定。

　しかし、もはやこの程度のことじゃあまり驚かなくなっている俺がいた。

「これからよろしく、透♡」

　……どうやら俺に、安息の時間は訪れないらしい。

　かくして、俺は修羅場ってる美少女二人と一緒に暮らすことになった。