第3話 軋む歯車の前兆

僕はまだ理解できずにいた。


能力がある?

いや何からしらあるとは少しだけ思っていたが。だって無能力なんて聞いたことなかったから…まず測定不能というのがおかしい。諦めていた心に弱すぎる異能力を言われ心が完全に折れるのを避けて、いや恐れて僕は診断なんて受けたく無かったし、高校や大学の診断についてほぼ結果を聞くまでもなく流していたし…。

でもなんて?殺した相手の…?そんな能力があるのか?


「おーい聞いてんのか?…まぁ無理もねぇ。俺もこんな能力聞いたことがねぇ。まず発動条件が特殊だ。例えば気温が低ければ低いほどとか、水中の中でとか、一定の条件下で能力が発生する、強化される条件付能力というのもあるが…こんな条件は…より興味を惹くぜ。」


僕の思考を遮り甘鍵は言う。

診断結果を見ながら口元を抑え込み出る笑みを隠している。


「お前の親はどんな能力だ?」


異能力も遺伝する。

完全一致ではないがその色を残す。

だから聞いてきたのだろう。


「僕の母は…たしか体から熱を出せるとかなんとか…。あんまり僕の前で使わなかったんで覚えてないですね。」


「ほう。異能力の突然変異か…。いやありえねぇことじゃねぇ。そういった例は珍しくない。だがここまで異様な能力…。」


ぶつぶつ言いながらよしと言うと、甘鍵はどこかに電話をかけた。


「今日は出るから。よろしく。」


電話口から怒鳴り声がまだ聞こえていたが甘鍵は通話を終了し、白衣を脱いで立ち上がった。


「ちょっと付き合え。」





僕は甘鍵の車でどこかへ移動している。

目的地を教えてくれないのでどこへ向かっているかわからない。

拉致された時はこんな気分になるのか。

めっちゃ緊張してる。


ちなみに僕はこの後バイトが入っていたが、それも甘鍵が電話で連絡していた。

店長の怒鳴り声が聞こえていたが


『福音』


という単語を聞くと怒鳴り声は収まり通話は終わった。


「…これから僕をどうしようって言うんですか。まさかとは思いますが、人体実験とか…」


「ハッハー!ドラマや漫画の見過ぎだろ!そんな非人道的なこたぁしねぇよ。お前にはな。まぁなんだ、俺の友達…いや仕事仲間だな。に紹介したくてな。いいだろ?それぐらい。医療費まけてやったんだから。」


「…さっき会ったばかりの人間を紹介なんて怪しすぎます。まぁ医療費は助かりました。」


そこは素直に感謝する。

常に金欠だ。予測できない出費は痛い。


「どーだ?もう指は動かせるようになってるだろ?こんなんだが腕は確かなんだよ。俺は。」


それを自分で言うか。と思ったが素人目に見ても重症だと思った指も、元通りにとはいかないが日常生活で支障の出ないぐらいには治っている。


「保険適用された医療費もケチるぐらい金欠なのか?…まぁヒーローが全部やっちまうからなぁ。仕事探すのも一苦労だ。ハローワークヒーローなんて現れたら一気に人気No.1ヒーローだろうよ。」


皮肉めいた笑いを浮かべ電子タバコにスティックを差し込む。


煙を吐きながら僕の方を見てまた笑う。

今度は悪人の笑いだ。


「そんなお前にうってつけだ。仕事を紹介してやんよ。」



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ヒーローアンチテーゼ ろぐ。 @Rogu

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