第65話 飾られたアイロニー

不思議なもので、すでに転落して崖の底にいる者が、それに気付かず、転落を恐れるという滑稽なことが往々にしてある。

なぜ、何も持たないはずの者が失うことを恐れるのだろうか?

あるいは、すべてを失ったというのは、私たちの独断的な思い違いで、真実、彼らは何かを手にしているのだろうか?


少年少女は美しい。

それは、彼らが何も手にしていないからだ。

私たちはいつの間にか、何かを手にした者に美を見出さなくなるのだ。

誰かを傷付ければ、自分が傷付けられるだけなのに、私たちはお互いに傷付け合うことを止められない。


争いは続く。

平和主義者は恒久の平和を願い、その理想に殉じて戦いに赴く。

いったい、平和によって何が得られよう?

私たちは平和の箱庭の中で、ソドムを造るのではないか?

決められた掟に、いかほどの意味があるだろう?

戒律がなければ、私たちは優しくなれないのだろうか?

問いは生まれ、永い年月をかけて解決され、また新たな問いが生まれる。

私たちは永久に悩まなければならないのだろうか?

それこそが、人間の、人間的性質だと言わんばかりに。

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