第57話 欺瞞

あどけない少女の頬の赤らみは、それ自体が詩である。

その鮮やかなあかは、時と共に薄れてゆく。

時間は彼女から詩を奪い、花々の芽吹きを与える。

女性が持つこの移ろいは、我々の心を惑わせる。


瑠璃には、紅い頬でいることはできなかった。

彼女の境遇は、健全な花の発育を止めてしまったのだ。


瑠璃はいつも傷付いていた。

彼女には、元来ある一定の反骨精神があったのだが、それさえも追いやるほど彼女の世界は暗かったのだ。


幸せに生きるためには、「頭の良し悪し」ではなく、「心の良し悪し」が大切だと、悟りきったような道徳家が高説を垂れることがある。

しかし、現実を眺めてみると、それは嘘だということがすぐに分かる。

この世界では、純粋な心を持つ者は、しばしば傷付けられる。

傷付いた結果、もうこれ以上傷付きたくないから、彼らは純粋であることを辞めるのである。

これが世に言う「大人になる」、「成長する」ということの本義なのだが、こうして人々は自ら、花びらの舞う桜の季節を終わらせるのである。

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