第56話 Miserable

瑠璃の通う四葉学院よつばがくいん中学・高等学校は、東京都千代田区にあるキリスト系女子中高一貫校である。

1909年の創立以来、カトリックの精神に基づいた全人教育を行っている。

全人教育とは、大正時代に小原國芳おばらくによしによって唱えられた教育理念であり、「全き人間」を目指すため、人間文化の6つの要素、すなわち、学問・道徳・芸術・宗教・身体・生活について、それぞれの理想である「真」・「善」・「美」・「聖」と、それを支える補助的な価値として「健」・「富」を備えた完全で調和のある人格を育むべきであるとするものである。


瑠璃の父・秀雄は、瑠璃に対して「頭の良さ」を求めてはいなかった。

ただ、人格的に優れていれば、報われた人生になると考えていたのだ。

これは秀雄の人格の不健全さによるコンプレックスの裏返しであったかもしれない。

不思議なことに、秀雄は自らの人格の欠点を認めていた。

その上で彼は、自らの振る舞いを改めることなく、母を罵倒し、瑠璃に冷や水を浴びせるのだった。


これはいったい、どういうことだろう?

精神的な異常というものは、怜悧な頭脳をも抑えつけるのだろうか?

それならば人間の知性というものは、果たしてどれだけの力を持つと言えるのか?

我々は精神の奴隷に過ぎないのだろうか?

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