第54話 小鳥の囀り

この頃の瑠璃の気休めといえば、音楽だった。


音楽は、人間が発明した芸術の極みである。

世界を憎む悪人であろうとも、音楽だけは愛するということが、少なからずあるのだ。

音楽は誰に対しても平等だが、彼女のような悲惨な運命を背負った者にとっては、平等は即ち優しさになる。

音楽だけが彼女に優しかったのだ。


瑠璃はヴィジュアル系バンドを好んで聴いた。

ヴィジュアル系バンドの持つ世界観は、幻想的であり、頽廃的であり、破滅的だった。

こうした世界観は、彼女のような精神的な問題を持つ者に、束の間の安らぎを与えるのだ。

概して、ヴィジュアル系というジャンルはミュージシャンの中で見下されるものだ。

それはおそらく、彼らが曲の良さや演奏に情熱を傾けず、見た目を繕うことで支持を得ようとすると思われるからだろう。

こうした姿勢は、主に職人気質のミュージシャンには好かれないのだ。

筆者はこうした見解に対して反論を持つ者であるが、物語の本筋から逸れることを危惧して、ここでは述べない。


とにかく、音楽を聴いている間、彼女は幸福だった。

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