第53話 泥濘(ぬかるみ)

三島由紀夫が事あるごとに太宰治を批判したのは、三島自身にも太宰的な性質があり(それは三島からすれば「弱さ」と映った)、自らへの戒めとして、自己批判的になじっていたことは自明である。

では、このマチズモ的価値観に全身を浸らせた若き美青年にも、そうした弱い一面があったのだろうか?

それは、これから筆者が物語る出来事から推察されたい。


さて、瑠璃という少女の生い立ちに話を戻そう。

経済的には恵まれ、愛情的には恵まれなかったこの少女はどういった女性になったのだろうか?

彼女は父親譲りの聡明な頭脳を持っていた。

中高一貫の名門女子校へと進学した彼女だったが、友達はできなかった。

彼女は非社交的だったわけではない。

ただ、神経過敏で理屈で自分を武装するようなところがあった。

一般的に言って、これは男性によく見られる特徴である。

こうした性質は、例えば彼女の父親のような研究者の界隈では歓迎されたかもしれないが、女社会では受け入れられなかったのだ。


中学に入って程なくして、彼女はイジメを受けるようになった。

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