第45話 無能なくせに、屁理屈だけはこね回す男

青年の元に、Mの上司であるTがやってきた。

この口論に耐えかねたMが、Tに助け舟を求めたのだ。


「Kさんは、作業をやらずに、自分の勉強をすると言っています」

「ふむ・・・、どうしてそんなことになったんですか?」

Mはことのあらましを語った。

すべてを聞き終えたTが口を開いた。

「それは、解釈の違いであって、どちらも悪くないと思いますが・・・、追加でお願いしますと言われて、分かりましたと、それで終わりではないんですか?」

「すみませんでした、これもお願いします、と言われたならそれで終わっていたと思います。問題は、Mさんがミスに対する謝罪をせず、こちらにも非があるかのようなことを言い、あまつさえ自分がやった方が早いということを言ったことです。それは倫理的におかしいのではないですか」


否、これは倫理の問題ではなかった。

これはひとえに、青年のプライドの高さによるものだった。

この根が人一倍神経質にできている青年にとって、自分のプライドを傷つけられるのは我慢ならなかったのだ。

こうした過敏性を、青年は倫理の威を借りて自己弁護したのだ。


「多分、作業を確認したあたりから、行き違いが発生していると思うんですよね」

「いえ、細かいことを言うと、作業の期限はいつですか?という質問に対して、いつまでに終わりそうですか?と質問で返すのも嚙み合っていないと思います。」


こうした指摘は、青年の神経質さと扱いづらさを示すだけだった。

困惑した表情で立ち尽くす二人のスタッフに、青年は歪んだ正義の眼差しを向けていた。

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