第44話 炎

翌日、スタッフからのチャットが送られてきた。

「ここの部分の入力もお願いします」


青年は烈火の炎になった。

「Mさん、作業を指示する際には、まず自分の中で作業を把握してから、指示してもらってもいいですか」

青年は直接スタッフに声をかけた。

「でも、私は時間がないんです。他の仕事もあるし、週2回しか出勤しないので、それをやっている時間はありません」

「本当に時間がないのなら、まず自分の仕事のやり方を変えるべきじゃないですか。それでもダメなら、上司や社長に相談して、仕事の量を調整してもらった方が良いと思います。その皺寄せが僕に来るのは違うと思うんですが」


この無口な青年は、生来敏感だった。

その敏感さが、彼に苛烈な口撃をさせた。

「ここの入力も必要だということに気付かなかったのですか?」

「気付かないですよ!人のせいにするのはやめてください」

「そもそも、この作業も私がやった方が早いんですよ」

これは青年にとって、あまりに礼を失していた。

仮にそれが事実だったとして、それを直接相手に伝えてしまうのは、上に立つ者として、不適格だと思えたのだ。

青年の怒りは臨海に達していた。

「それなら、自分でやったらいいんじゃないですか」

「そしたら、Kさんは何をするのですか?」

「僕は自分の勉強を進めます」


スタッフは、アドニスの元を去り、上司の元へと向かった。

青年はこのスタッフの眼に涙が浮かんでいたのを垣間見たが、それはすぐ後ろ姿へと変わった。

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