第43話 アドニスくんさぁ・・・

青年は、あるデータ入力作業を任されていた。

それは、ある事業に対する経費を精算して、経理に提出するという、極めて地道な単純作業だった。

青年はこうした単純作業を不得手としていた。

根がどこまでも怠惰で飽き性に出来ているこの青年は、単純作業にはやる気が起こらず、ミスを連発してしまうのだ。

この日は、社内の動きが目まぐるしく、青年は次から次へとこうした単純作業に従事することになってしまった。


これがいけなかったのである。

青年は必ず作業に取り組む前に、チャットで作業の要諦や手順を確認するようにしていた。

これは、作業を完璧にこなしたいという青年の神経質さからきていたが、実際、そうすることで、作業の伝達ミスは防ぐことができていた。

くだんの入力作業を任された際も、青年はアスペ特有の神経質さでもって、執念深い確認を行っていた。

青年はチャットを送った。

「入力するのは、○○のみですか?」

スタッフからのチャットはこうである。

「そうです」


これがいけなかったのである。

この返答は実際には間違っており、スタッフがきちんと作業を把握していなかったのだ。

そうとは知らず、これを字義通りに受け取ったこの自閉症の青年は、作業を終わらせ、得々とした顔でこれを提出した。

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