第42話 動作性IQが境界知能の男
このようにして、苦心しながら本を繰り返し読むことで、知識をつけてきた青年だが、しかし、文章ならば同じところを何度も読んでも構わないが、人に何度も同じことを聞けば、怒りを買うのである。
これは、青年を苦しめた。
この青年は自閉スペクトラム症を抱えていた。
この青年はWAISⅢと呼ばれる成人用のウェクスラー知能検査を受け、障害と診断されるに至ったのだが、その結果は、青年の知能の凹凸を如実に現わしていた。
青年は全検査IQの数値は、100という極めて平凡な数値だったが、言語性IQと動作性IQの数値が30以上も乖離していたのである。
これは、青年の生きづらさを表現していた。
一般的に言語性IQと動作性IQの値が15以上差があると発達障害の疑いがあると言われる。
青年のそれは、診断基準を優に超えていた。
この動作性IQが境界知能の水準にある青年は、土台社会に適合することなど無理な話だったのである。
青年は社会に揉まれる、というよりもいたぶられる中で、己の無能さを徐々に確信していったが、こうして築き上げた彼の世界観が、この知能検査により、さながら長く悩み続けた問題に対する解答が渡されたかのように現出したのである。
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