第39話 あまりにも・・・
このアドニスは仏教の「無我の境地」を理想としていた。
彼は喜びも悲しみも感じたくなかった。
感情のアップダウンがなければ、平穏に暮らすことができると信じていたからだ。
彼は感情を揺さぶるあらゆるものを遠ざけようとしていたが、それは同時に、彼が感情を揺さぶられやすい敏感さを備えていることを示していた。
彼はこうした己の敏感さを嫌った。
彼は努めて自分が外界に対して無関心であるかのように装った。
その試みは功を奏し、彼を見た人は、彼を飄々としているか、はたまた冷淡であると見なした。
アドニスはこうして自分の感情と現実を分離していたが、それはときに、彼の身に災難をもたらしもした。
彼の感情から遠ざかった立ち振る舞いは、ときに感情的な者を不快にさせるのだった。
彼らは、彼の言動の端々から感じる冷淡さ、整然な論理性を嫌悪した。
合理的には正しい選択が、長い目で見ると不利益になるということがある。
アドニスは立ち回りの巧みさには欠けていた。
彼は敵を作りやすいタイプだった。
彼がB型作業所という社会の僻地に追いやられたのも、こうした性向があったためだろう。
こんな自覚さえも、アドニスは見て見ぬ振りをし続けた。
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