第38話 第三世界 ~B型作業所の現実~

アドニスが通うB型作業所、正式名称「就労継続支援B型事業所」は、社会から隔絶された空間だった。

そこには社会で働くことができない障害者たちがいた。

アドニスもその一人だった。

だが一方で、そこはあまりにも社会だった。

人は二人いるだけで、社会が形成されるとどこかで聞いたことがある。

あまりに、あまりにいびつな社会だった。

見せかけの、ミニチュアの、仮面を着けた社会だった。


ある時、新しい利用者が来た。

20代の若い青年で、彼はYoutuberになりたいと言っていた。

アドニスは、まず無理だと直観した。

彼には、明らかに華がなかった。

華がなくても、Youtubeで成功できるかもしれない。

しかし、それには能力が必要だ。

彼は良く言えば純朴で、悪く言えば愚鈍だった。

彼の他にも、Youtubeで成功し、人生を一発逆転したいと言う者がいた。

こうした言動を、アドニスは呆れた眼で眺めていた。

この冷めきった青年には、「一発逆転」などという概念はなかった。

人生を「一発逆転」できる確率より、車に轢かれたり、蜂に刺されたりする確率の方が高いと思っていた。

なぜ、恵まれない者に限って、「一発逆転」などという無謀な夢物語に耽溺するのだろうか?

それは当然の心理だったのだが、このアドニスはそうした人間心理への想像力に乏しかったのだ。

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