第35話 嵐の前の

「これが、僕が作ったCDです」

「これは・・・すごいタイトルですね」

CDのタイトルには「悲哀の死喜劇」とあった。

これは青年が初めて自分で作り、同人音楽即売会で売ったCDだった。

青年は全身に緊張を感じたが、もはや退路は塞がれていた。

「柿谷さんは同人音楽というものをご存じですか?」

「Sound Horizonとかですか?」

「そういえば、あれも元はそうでしたね」

「どんな音楽なんですか?」

「黒夢・・・とか、分かりますかね、ヴィジュアル系の」

「おぉ、聞いたことはあります。ああいう音楽なんですか」

「色々と作ってはいますがね。とにかく聴いてみてください」

「分かりました。楽しみに聴きますね」


こうして青年は無事にCDを柿谷に渡せおおせた。

青年にとって音楽は翼だった。

今、その翼は羽ばたき疲れ、静かな休息を必要としていた。

ふと、青年は今日がクリスマス・イブだということに気づいた。

冬休みはもうすぐだった。

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