第34話 朝、燃ゆ

翌日、青年の心には空白と彩りが同居していた。

これは取りも直さず、柿谷に自作音楽を聴かせなければならないという憂鬱と、その反応に対する期待に基づいていた。

この悲しき青年は、前日の夜に6曲入りの自作CDを鞄に詰めた。

すべては天に任せた。


朝、青年は職業訓練校へと向かうバスから降りる柿谷を目撃した。

すかさず柿谷の隣へ移動した青年は話し始めた。

「柿谷さん、おはようございます。先日はどうも」

「おはようございます。今日は寒いですね」

確かに、この日は寒かった。

真冬の凛冽な空気が、道行く人々の体を小さく縮こまらせていた。

しかし、青年はそれを意に介しなかった。

彼の心は赫々とした太陽のように燃えていたのだ。

彼は決意を固めていた。

「柿谷さん、先日話していた僕の音楽ですがね、持ってきましたよ」

「おぉ!」

柿谷の驚嘆の声は青年を鼓舞した。

「あとでお渡ししますね」

「楽しみです」

二人の青年は冬の朝日を浴びながら、肩を並べて職業訓練校までの道のりを歩いた。

ナルシスは火照りを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る