第33話 霹靂

剣豪になりたいと思った。

青年は、三島由紀夫の『奔馬』を読み、物語の主人公・飯沼勲の生き方に強い感銘を受けたのだ。

飯沼勲は右翼組織を結成し、社会を変革するための決心を起こした。

その結果として、彼は切腹するに至ったのだ。

その凛とした魂の輝きは、青年の心をしたたかに震わせた。

そこでは、大儀への確信をもって、死に向かう者の勇姿があった。

それは、太陽へと近づこうとしたイカロスだった。


信念を持たねばならぬと思った。

己の中に、確とした信念がなければ、外圧に対し絶えず揺れ動き、どこへも辿り着けないだろう。

青年は同性愛者という自覚に対して、半ば被害者意識のようなものを感じていた。

それは天から与えられた大罪なのだと。

しかし、今やその意識は変容した。

自分は明確な同性愛者であり、それは自ら選び取った運命なのだと。

この意識は、青年を成長させたように感じた。

後ろ向きだった自分の意識を、前向きに転換することができたように感じた。


青年は、瞼の裏に朝日を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る