第32話 冷笑

けだし、成功する者は、運とマーケティング感覚に恵まれている。

青年はこうした信念を持っていた。

この信念は、才能や努力が成功につながるという一般的通念と乖離していたが、これを信じることにより、青年はそういったものが自分に備わっていないために成功から遠ざかっているという認識を退けていたのである。

ヒット曲が生まれるのは、曲の良さそれ自体に原因があるのではなく、事務所やプロデューサーのネームバリューと広告戦略にあると信じていた。

レイモン・ラディゲが、10代の若さで文壇に出ることができたのは、彼の父親が出版社の編集者であり、ジャン・コクトーとのコネがあったからだ。

つまり成功するか否かはその大半が運なのだ。

こうして青年は才能と努力を軽視した。


そもそも、本物の天才と呼べる者がいたとして、それは世間に評価されるものだろうか?

本物の天才というものが、世俗の中で成功することなどあるだろうか?

人間が猿の群れに混じったとして、猿は人間を高く評価するだろうか?

人間は猿の群れに馴染めず、猿社会の片隅でひっそりと生きるのではないだろうか?

こうした思考を援用して、青年は世に蔓延る「天才」を嗤った。

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